宅配ピザ特集:その変遷をたどる
熱々のピザを、注文から三〇分前後でお客の手元に届ける宅配ピザ。一九八五年、米国最大手の宅配ピザチェーン「ドミノ・ピザ」が東京・恵比寿に日本一号店を出店、これを契機にわが国の宅配ピザ業態は始動した。以後、後発チェーンが全国で続発し急速に市場を拡大した。
業態発足から一〇年強の現在、全国店舗数は約三〇〇〇店舗、市場売上げは約一三〇〇億円に達する。ハンバーガー業界が約二五年間で三〇〇〇店舗築いた実績に比べ、その異例な急展開ぶりが伺える。急成長した要因は次の通りである。
(1)低投資と立地条件の緩和
宅配専門であるため、店舗はコンパクトで厨房設備だけの軽装備。立地条件は、一定以上の人口を満たす商圏内であることだけ。しかも裏立地で十分なため、出店コストは一五〇〇~二〇〇〇万円と超破格(低投資)。
(2)素人経営、アルバイト主体運営が可能
調理オペレーションは、ドウ(クラスト)に食材をトッピングしコンベヤーオーブンで焼き上げるだけ。したがって、アルバイト主体の店舗運営が可能で、飲食店未経験の脱サラ経営者に最適。
(3)高効率・高収益
オーダーピークは平日の夜と休日に限られるため、営業時間を大幅に短縮できる(平日は午後5時~11時ぐらい、休日は午前11時~午後10時ぐらい)。勤務シフトの集中化が図れるため、店舗運営は極めて高効率に展開した。ブーム時の月商はバイク一台換算で一〇〇万円が目安。オーナー利益率は一五~二〇%にも達した。
(4)目新しさで脚光・一大ブームに
メニューチラシのポスティングによる“攻め型経営”が脚光を浴び、一大ブームを巻き起こした。また、配達に使うジャイロ(三輪バイク)のファッション性が話題となってテレビドラマなどにも多く登場。宣伝効果を発揮し、宅配ピザ業態の認知度を急速に高めた。
以上が急成長要因の大筋であるが、ほかに宅配ピザが「宅配ピザ」であるがゆえの重要なポイントがある。それは「出前の特化型業態」であることだ。出前は、店内飲食を主体とする飲食店の付随的商行為、つまり「運ぶ」という付加価値に過ぎないが、宅配ピザはそれを専門的に扱うことで従来の出前とは大きく差別化した。
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具体的には次の通りである。
(1)配達は原則三〇分以内
出前には延滞の苦情が多いが、宅配ピザは三〇分以内に届けるという保証(届けられなかった場合はペナルティー)をつけることで、「配達待ち」のいらだちを解消した。
(2)一番おいしい状態で手元に届く
出前は、店内提供と同じ料理を届けるだけ。当然、配達中に品質が劣化し、店内で食べるよりも味は落ちる。店内提供の味を一〇〇点とすれば、出前は八〇点でも否めない。宅配ピザの場合、焼き立てはチーズの沸騰で二〇〇度C近くに達し、とても食べられる状態にない。
だが、ピザボックスとホットバッグに詰め、一〇~一五分かけて配達すると、ピザの温度は七〇度C前後に下がり、一番おいしい温度帯となる。つまり、お客の手元に届いた時、初めて一〇〇点満点の味になるよう仕組みづけられているのである。
(3)定期的ポスティングと顧客データ管理
宅配専門であるため、販促はメニューチラシのポスティングが主である。チェーン格差はあるが、通常、一店舗あたり月間五~二〇万部のポスティングを繰り返し、オーダー状況から地区別の反響や嗜好調査をデータ化、次なる戦略を打ち出す。絶え間ないユーザーニーズの先取志向は、固定化志向の出前とは逆行したものである。
宅配ピザ業態は、市場の急拡大にともなって幾多の局面と淘汰を繰り返している。
(1)業態創生期のシステム構築競争(第一次戦争・一九八五~八八年)
ドミノ・ピザに続くチェーンが次々と現れ東京二三区内を舞台に展開。「ミスターピザ」「ピザ・ステーション」「ミスタージョージ」などがこの時期活躍したが、現在は本部の経営権譲渡や倒産で影を薄めている。
また、ドミノ・ピザを模倣しただけの店は、この一次戦争でほぼ全滅した。
(2)ブーム期の出店競争(第二次戦争・八八~九四年)
ドミノ・ピザが堅調に直営出店を続ける中、FC展開による多店舗化競争が勃発、都市部の陣取り合戦が加速し、「ピザ・カリフォルニア」「シカゴピッツァファクトリー」「ピザーラ」が全国区に躍り出る。これに「ストロベリーコーンズ」「ピザ・ウイリー」「ピザハット」「ピザポケット」「ピザ&ピザ」(現リトルパーティー)などが続いた。この競争期終焉と同時にビッグセールスに歯止めがかかった。
(3)店舗飽和化による差別化(付加価値)競争(第三次戦争・九四~九六年)
出店過剰により都市圏で店舗の飽和化が始まり、さまざまな差別化が始まる。ピザーラは大々的にTVCMを開始。宅配弁当など異業種宅配との複合店化も相次ぎ、多彩な顔ぶれが出そろう。これにバブル崩壊後の価格競争とキャンペーン合戦が相まって各地で競争が熾烈化。淘汰色が強まり、各商圏で強いチェーン店と弱いチェーン店の入れ替わり現象が始まる。
(4)個性化競争と基本回帰、現状フォーマットの見直し(第四次戦争・九六~九七年)
やはり宅配ピザ店は宅配ピザ店。近年は、目新しさよりも基本回帰志向で、各チェーンとも自らの得意分野を研ぎ澄ます傾向にある。次いで、損益分岐点を引き下げた利益重視型店舗フォーマットの開発、それによるローカル市場の開拓が進んでいる。また、顧客管理リストや物流網など、これまでの実績を生かした新規事業の開発機運も高まった。
(5)極端なディスカウント合戦(第五次戦争・九七~九九年)
2面参照。