この1品が客を呼ぶ:カフェ・ハイチ新宿本店ドライカレー

2000.03.06 199号 8面

至る所にハイチの民芸品や絵画が飾られ、BGMには軽いテンポの民俗音楽が流れる店内。カフェ・ハイチはその名の通り、カリブ海に面した小さな独立共和国、ハイチの風を満喫できるカフェだ。

オーナーの鎗原(うつぎはら)光弘さんが、中南米を旅した際に二年ほどハイチに留まり、ハイチの文化や風土にほれ込んだことからスタートした。ここでオープン以来約三〇年、人々を魅了しているのが、ハイチ風家庭料理である「ドライカレー」(ハイチコーヒーシングル付き八五〇円)。幅広い年齢層に支持され、常時一日一五〇食、多い時には三〇〇食出ることもあるという。

そもそもハイチの家庭料理は、各家庭で味が異なり、個性豊かなのが特徴。ポピュラーな家庭料理であるドライカレーも例外ではなく、鎗原さんはどの家庭を訪ねてもひとつとして同じ味に出合ったことはなかったという。そんななか、一軒の家庭のドライカレーが鎗原さんの興味を引いた。

「ひと口食べた瞬間に、これはいけると思いました。あちらではサルサソースをカレーが見えなくなるくらいにたっぷりかけますが、それをかける前の味が、日本人好みの味だった。懐かしい日本の味に出合ったようで、感激しましたね」

ハイチの魅力を日本に伝えるため、まずはコーヒー豆の輸入を始めた鎗原さんだったが、それが喫茶店になり、そして食事のできるカフェスタイルの店になるまで、そう時間はかからなかった。

「ドライカレーはそもそも、喫茶店時代にスタッフのまかない食として出していたんです。それが思いのほか好評で、時々常連のお客さんに出したりしているうちに、要望が多くなってメニューに加えることにしたんです」

とはいえ、料理の知識が十分でない鎗原さんゆえ、レシピは専門家に頼むことになる。具材は牛豚の合びき肉に玉ネギ、ニンジンといたってシンプルだが、何度も何度も作り直してもらい、やっとのことで自分の記憶のなかにある味を再現することに成功。以来ドライカレーの味は変わることなく、保たれている。

日本でいうドライカレーは、ピラフのようにライス全体に混ざったカレーを指すのが一般的だが、ハイチのドライカレーは、白いライスの上に、硬めのカレーをかけたもので、通常のドライカレーとは一風異なる。そして鎗原さんはカレー同様、ライスにもこだわりを持つ。

「本場ハイチでは、油と塩で炊き込んだブラウンライスというものを使用するのですが、これは日本人にはちょっと重く感じるんです。そこで、このカレーに合うコメを探し求めたところ、宮城県で棚田米というコメに出合いました」

山の中腹を利用して作る棚田米は狭い土地を利用し、機械での収穫が不可能なため、収穫高が少ない。しかし農薬をほとんど使わず、きれいな天然水を使用したコメは、ハイチのカレーにピタリとマッチした。

ところでカフェ・ハイチのドライカレーには、日本のカレーライスの付け合わせの定番ともいえる福神漬が添えられている。なぜか。

「本来はキャベツ、ピーマン、ニンジンといった野菜を酢に漬けたピクルス状のものを添えるのですが、すぐに変色するし、カレーの黒っぽい色に添えると、どうもパッとしないんです。そこへいくと、福神漬のあの赤い色はカレーの色に映えるし、食欲をそそりますからね」

カレーはハイチ風でも、コメや福神漬など、日本のエッセンスも巧みに取り入れる。このハイチと日本との融合が、ファンを引きつけているのだろうか。

「正直言って、なぜこれほど皆さんがひいきにしてくださるのか、よくわからないんですよ。いろいろな条件が重なった偶然としか言いようがないですね。ただわれわれは、ともすれば『貧しい国』としか認識されないハイチ共和国を、より多くの人に知ってもらいたいだけなんです」

カフェ・ハイチではドライカレー以外にも数種類のハイチ料理を提供している。豚肉の煮込み料理「ラグ・デ・ベフ」や、鶏肉のクリームスープ「ブレ・ブランシェ」、スパイスがたっぷりと効いた「カリビアンソース」など。

だが、八割近いお客はメニューを手に取ることもなく、ドライカレーを注文する。そしてメニューはすべてコーヒー付きのセットメニュー。カフェ・ハイチの原点であるハイチコーヒーを味わってもらいたいという、オーナーの意向によるものだ。

「コーヒーは深炒りなのでカフェインが少なく、飲みやすいと好評です。隣国のジャマイカのように、コーヒーの輸出で経済的に豊かになれるよう、少しでも力になりたいんですよ」

現在は東京を中心に展開しているカフェ・ハイチだが、条件が整えば全国に支店を出したいという。目標は五年間で三〇軒。ハイチの文化を引っさげたドライカレーとコーヒーの旋風が全国に吹き荒れるのは、そう遠くないかもしれない。

◆「カフェ・ハイチ」新宿本店=東京都新宿区西新宿一‐一九‐二、03・3346・2389/坪数・席数=二〇坪・四五席/営業時間=平日午前10時~翌午前0時、日・祝日午前10時~午後11時、無休

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