焼き肉レストラン店舗運営の実状 「板門店」(上野) 創業46年、オリジナルのタレも
上野の通称“コリアン街”の一角にある。この界隈は焼肉レストランや韓国料理の材料店、民族衣装などを売る店が散在するところで、釜山あたりのバザールに似たような雰囲気の地域である。
店は建坪一〇坪ほどの小さな店であるが、三階建ての独立したビルになっており、客席は各階二〇席づつ、計六〇席で、二、三階は小上がり付きとオール座敷というフロア構成。コンパクトな店ながら、客席の趣に独自の工夫を凝らしてあり、また店全体の雰囲気にも、西洋レストランに似たファッショナブルな雰囲気が漂っている。
店の創業は昭和21年ごろというから、すでに半世紀に迫まる歴史ということになり、焼肉レストランでは古株に入るのは間違いない。事実、「板門店」といえば老舗の焼肉レストランで、業界では広く知られた存在でもあるようだ。
この店の売りものは、もちろん焼肉であるが、ホルモン焼と鍋料理も評判の商品といい、いわば二枚看板を売りものにしている店でもある。また、この店はオリジナルのタレとソースづくりが自慢といい、この点ではどこの店にもひけをとらない自信があるという。
「店の主人が昔、そごうデパートのフランス料理のコックをしていたという経験もあり、それでタレとかソースづくりはお手のものなんです。もっとも、焼肉のタレは醤油、味噌味とあるわけですけど、これには韓国の家庭料理の伝統も加えて、日本人のし好に合うよう作り上げてあるのです」と話すのは、店のオーナーの山村喜子さん。
焼肉とタレは不可分の関係で、この二つがベストでないと、焼肉は食べられたものではない。板門店では肉は和牛(松阪牛)の特上、上質のものを使っており、冷凍ものは一切使っていない。タレは醤油、味噌ともに甘辛く、独自の薬味のブレンドによって作り上げており、オリジナリティをアピールしている。
このオリジナルの味噌ダレは、下準備の際にメニューによっては、あらかじめ肉に薄くつけておくものもあり、これによって肉のくさみと、肉質をほぐしおいしさを倍加させるという工夫をしている。
「味噌独特の風味、味わいがありますから生ぐさい肉にはよく合うんです。それにいろんな薬味入りの味噌ダレですから、胃の消化にもいいんです」(山村オーナー)。
焼肉は特上カルビ二二〇〇円、カルビ一一〇〇円、特上ロース二二〇〇円、ロース一一〇〇円、上タン塩一四〇〇円、上ミノ一〇〇〇円といった価格構成であるほか、ホルモン牛の腸類であるが、刺身類もある。これはレバ一〇〇〇円、仔袋一〇〇〇円、チレ(牛スイ臓、センマイ入り)一〇〇〇円、センマイ八五〇円、イカ、アジ、カオリ(各一〇〇〇円)など。
もう一つの看板メニューである鍋物は、ホルモンチゲ(味噌味、玉子入り)、カルビチゲ、豆腐チゲ、魚チゲ(各一一〇〇円)などで、すべて独自の味噌仕立てでおいしい。鍋物料理は、基本的には冬場であるが、夏でも暑気払い、スタミナ料理の一つとして食することができる。
焼肉料理では漬物も忘れてはならない大事なサイドメニューの一つである。キムチ、カクテキ、オイキムチ、青菜キムチ(各五五〇円)などをラインアップしており、甘辛さと独特の風味があっておいしい。
もちろん、サンチュ五五〇円、ナムル七〇〇円、ワカメサラダ八〇〇円などの生野菜、サラダ類も揃えている。しかし、全体のメニュー構成は絞り込んでおり、焼肉、ホルモン、鍋物、刺身という主力ジャンルで三〇アイテムくらい。長年の経験から売れ筋メニューをつかんでいるのである。
客層はビジネスマン、カップル、ファミリー客と様々であるが、文化人、出版、マスコミ関係の人も多いという。客単価四〇〇〇円、宴会であれば六〇〇〇円と、焼肉レストランにしては比較的安い。