トップインタビュー:叙々苑代表取締役・新井泰道氏

2000.09.18 212号 16面

高級焼き肉店として最高峰を誇る(株)叙々苑。昭和51年六本木に一号店を出店、いち早く無煙ロースターを導入し高級感のある店づくりを行い、サラダやデザートを出すなど従来の焼き肉のイメージを懐石料理の域まで高めた。そんな新井泰道社長の次々に繰り広げられる、ワクにはまりきらないチャレンジ精神は五七歳の今も絶好調。焼き肉界のトップランナー、叙々苑から当分の間、目が離せない。

日本の焼き肉店の東のルーツといわれる、新宿の「明月館」へ板前見習いで入ったのが一五歳。以来私はずーっと板前だと思ってるんです。ただ板前というのはプライドがあってなかなか自分の非を認めませんが、私の場合はお客さんがまずいといえば「はい」と素直に認めてしまう。しかし、じゃあなぜまずいと言われるのか、納得できるまでとことん研究し尽くします。こう見えても、水面下では努力の人なんです。(笑)

焼き肉店で重要なのはもちろん肉。赤い肉は赤いまま出すべきでお客さんに提供する三〇分前、一時間前に切らなくてはなりません。どんなに安い肉でも真っ赤な花が咲いたようになりますからね。今日切った肉は明日出さないこと、これが最低の基本。繁盛する秘けつは、こまめな仕込みです。

これだけ焼き肉店が増えてくると、お客さんの舌と見る目は向上するばかり。私たちもうかうかしてはいられません。メニューは種類が豊富なほど選べて楽しいもの。朝鮮・韓国料理メニューの掘りおこしをしてヒントを見つけることが必要です。中でも漬け物が一番魅力じゃないかな。食通も虜にする深い領域ですからね。私が関心あるのは辛くないキムチ。あと、サラダ類の研究は絶対に不可欠ですね。おいしい焼き肉はコクのある深い味わいでなければならないし、野菜サラダを合わせて食べることは、味覚の面からも栄養バランス面からも大事です。

ほかに内臓系も原価が安く栄養豊富で飽きがこない点から、提供の仕方ではこれからのカギとなるでしょう。実際に今、女性を中心にヘルシー色の強い内臓メニューが増えてます。時代は変わるもんですね。

メニューのアイデアはいろんなところにころがってますよ。私はトレンディードラマもよく見ますよ。女房にはあきれられますが、関心あるのは食事シーンだけ。先ごろの南北首脳会談の模様もテレビで見て感動しましたが、その時テーブルに並んでいた料理や器やテーブルセッティングにも大いに興味をそそられましたね。テープにとって何度も見直したくらいです。

一二坪の広さの最初の店は四六%の原価率をかけてました。場末だったため経費もかからず、とにかくお客さんに喜んでもらうことだけを考えてましたね。お客さんも並んで待ってくれるほどたくさん来たし、経済的にも豊かになった。

でもその時考えたんです。仕入れの金額が同じならもっと高く売れるところへ行こうと。それで三年後、六本木に出ました。固定費がかかる分、サービス料を一〇%いただき、エプロンやアイスクリームをつけるなどして価値を高め、客単価もぐっと上げました。当時は、だれも考えなかっただけに、あっというまに「叙々苑」の名前が広がりましたね。

今の時代、いかにして原価率を下げるかです。叙々苑でも一~一・五%下げました。ただ料理内容は落とせませんからいろいろな工夫をするわけです。

たとえば先ほどお話した内臓系やスープ、野菜サラダなどのメニューをすすめることもひとつでしょう。

画期的な年でしたね。「叙々苑游玄亭」を焼き肉店としては初めて銀座へ出店したり、続いて新宿に約六二〇坪の「叙々苑游玄亭新宿」をオープンさせました。次の構想は一流ホテルに出すことでしょうか。全国各地の話題のビルにシンボルとして出店もしたいし、まぁ夢は限りないですよ。

社員が叙々苑に夢を感じてくれるよう、速度が落ちても年に何店かは出店してゆくことも大切ですね。

私が社員に話すのは、食事をしているお客さんの視野のぎりぎりのところに目立たずいなさいということ。お客さんの近くにはりついているのは、良心的なサービスのようでいて実は違います。逆にお客さんがリラックスできませんからね。食器を下げるころ合いもお客さんの状況をよく見て判断しなければなりません。早すぎてもいけないし、遅すぎてもだめ。お客さんが必要としている時に「ふと」そばにいることがポイントでしょう。非常にむずかしいですけどね。

私は、お客さんが帰られる時に何気なく後をついて行って、料理やサービスについての感想をそっと聞くことがあります。そういった生の声が一番の参考意見です。耳の痛い話の場合は、すぐ対応策を考えますけど、幸せそうな面もちでほめていただいたときは、何よりうれしいですね。

◇企業メモ

◆(株)叙々苑/代表取締役=新井泰道/本社所在地=東京都港区六本木七‐四‐五、六本木稲垣ビル3F、03・3423・2646/会社設立=昭和59年/資本金=一〇〇〇万円/従業員数=一五〇〇人(パート一〇〇〇人)/年商=一〇一億円(昨年度実績)/店舗数=二九

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