シーフード調理学(10)カニ<2>甘さの秘密はグリシン

2001.12.03 241号 20面

わが国のカニであるが、海産のカニには大型で美味なものが多く、北海道のタラバガニ、毛ガニ、日本海のズワイガニ、表日本の内湾に多いガザミ(ワタリガニ)が知られている。

一方、淡水産のカニは小型で肉が少なく、湖入りの河口にすむモズクガニ、山中の水沢などにすむ沢ガニが親しまれている。主な食用ガニは次のとおり。

▼ガザミ(ワタリガニ)=青森以南の内湾、内海に多い。甲が菱形なのでヒシガニと呼ぶ地方もある。足を針などで刺激すると、付け根からポロリと落ちる。

▼ズワイガニ=関西では松葉ガニ、福井県で多くとれるので越前ガニともいう。また、秋田県や新潟県ではタラバガニと呼ぶので、北海道のタラバガニとまぎらわしいこともある。さらに福井県に限れば雄を「ズワイ」、雌を「セイコ」と言う。雄が大きく雌は一回り小さい。

▼毛ガニ=北海道沿岸から仙台付近で多くとれる。体一面に粗毛があり、それほどおいしくない。

▼タラバガニ=オホーツク海、千島、北海道方面で多くとれる。タラの漁場(タラバ)で採取されるところから、その名がある。蟹工船で漁獲されたものは、すぐ船内で缶詰に加工されるか、急速冷凍にかけられる。現在はロシア産が主流になっており、それ以前は米国・アラスカ産が中心であった。

▼沢ガニ=淡水産で山中のすんだきれいな水沢にすむ。唐揚げにして酒の肴にむく。

▼シオマネキ=本州中部以南の内湾泥地にすむ。諫早湾の堤防問題でムツゴロウとともに話題になった。佐賀のガンズケ(蟹漬け)はこのカニでつくる。

カニのおいしさは、甘みの強さに特徴がある。これはグリシンという成分の甘さが強く感じられるため。生食することもあるが(淡水系はジストマの中間宿主なので注意)、ほとんどがゆでるので、それらの風味が特に表面化するといってよいだろう。

カニの風味のもと(物質)は、エキス成分にある。

脚の部分(カニ足)のエキス成分のアミノ酸組成は、グリシンとアルギニンの量が多く、プロリン、タウリンはやや少ない。遊離アミノ酸量は、毛ガニ、花咲ガニ、タラバガニが多く、ズワイガニ、ガザミは少ない。これに対して核酸成分は、毛ガニ、ガザミが多く、タラバガニは少ない。

このような分析を羅列しても仕方がないが、要は大型のものより小型のものの方が身肉一g当たりの「エキス成分」が多いということ。殻に身肉が詰まっているものほどおいしさを感じるということであろう。

これらの成分は雄の方が雌より多いといわれており、カニは雄の方がおいしい(風味がある)ということになる。

カニ肉はタンパク質に富むが、脂肪が少ないので味は淡泊。おいしさは調理次第ということか。群馬県の名物に「沢ガニの唐揚げ」があるが、油でさっと揚げ、甲羅ごと口に入れると、パリパリと香ばしく、酒の肴には絶品。火加減がコツで、両足を踏ん張った姿がいい。

(『ニューデリカ通信』編集長 染矢清亜)

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