トップインタビュー:海士町町長・石倉郁郎氏

2002.04.15 250号 3面

‐‐海士町で養殖されているイワガキの魅力は。

石倉 海のミルクといわれるだけに、しっとりとした風味、トロリとした甘みをもっている。食べてみないと分かりませんが(笑)。三年ものになると手のひら大の大きさになり、一個が四〇〇~五〇〇gにはなる。

ただ腸炎ビブリオ菌のリスクを減らし、生臭さをなくすため殻を削り、紫外線による滅菌海水で洗浄するので実質三五〇g強の重さ。しかし外見以上に殻につく身はぎっしりと充実している。

また味へのこだわりから海水温が低いと未熟、高くなるとえぐみが出るため出荷期間は、養殖海域水温が一七度C~一九度Cを保つ4月~7月の四ヵ月に限定している。

‐‐どんな栽培法か。

石倉 実は、島根県栽培漁業センターと共同でカキ種を作るのに成功した隠岐は、日本における数少ないイワガキ種苗の産地。

イワガキを手掛けている産地のほとんどが隠岐の種ガキを育てており、いわばイワガキの元祖は隠岐といえる。

栽培法は実にシンプルで、ホタテ貝の殻に種付けし後は対馬海流がもたらす豊富な養分で成育すること三年。ずっしり重量感ある豊満な身に変身していく。

昨年から三重、仙台などでも養殖を始めているが、成長までに三年はかかる。そのためにも「隠岐・海士町のイワガキ」が元祖ということをアピールし、他県製品が出荷する前に先手を打って売り出していきたい。

この他ホタテに似たイタヤ貝、五色の色をもつ緋扇貝など隠岐で養殖されている。緋扇貝は一〇万個養殖しており、生食もできるが、観光客は色にひかれおみやげに持ち帰る人もいる。

‐‐どんな販促を考えているのか。

石倉 隠岐・海士のイワガキをブランド化してアピールしたい。そのため一般市場を通さず、業務用で直販したい。まずは高級品志向のレストランに良さを知ってもらうことからスタートです。

具体的な食べ方提案として、地元では生食がほとんどだが、焼いたり、炊き込んだりなど和・洋・中のメニューが考えられる。

現在、どう商品化していくかプロの料理人を交えて商品開発をしている段階。

また離島というハンディのため輸送費でコストアップになるが、生産体制の中でコスト削減も図りたい。

‐‐海の産物、陸の産物の豊富な隠岐はどんな島か。

石倉 大きい島は有人の四島からなり、私どもの中之島は、流人の島として知られ、後鳥羽上皇、後醍醐天皇とか高貴な方が流されていた。人口は隠岐全島で二万六〇〇〇人。私の島(海士町)は、過去六〇〇〇人だったのが二七〇〇人と激減。三人に一人は六五歳以上の沖縄に次ぐ高齢県だが、元気いっぱいの島。

主な産業は、第一次産業の農業・漁業が基幹産業。近年、自然を生かした観光産業がこれに加わった。離島ではあるが、高速船とカーフェリーが一日八往復している。

‐‐そうした背景の中、なぜイワガキに取り組んだのか。

石倉 距離的ハンディから企業誘致ができない、観光もいまひとつ。漁業専業では生活が成り立たず、生きていくための活性化を模索していた。

島には豊富な海産物はあるが、特産化していくには安定した品質で継続的に出荷しなくてはいけない。そこで浮上したのが養殖。ブリ、ハマチ、フグのほかマガキの養殖に着手するが、冬のマガキは、広島をはじめ全国的なもの。先発の広島には太刀打ちできず、対馬暖流と寒流が交差する日本海のきれいな海を生かしたイワガキに着目、本格養殖となった。

現在、四島のうち三島でイワガキ養殖に取り組んでおり、海士町では三万~五万個、全島で七~八万個の生産体制。将来的には一〇万個、三〇万個と夢を膨らませている。

こだわりの品質だけに高級志向品として首都圏をターゲットに「隠岐・海士(あま)のいわがき春香(しゅんこう)」を売り出していきたい。ただこうした規格品ばかりでなく、規格外のものも加工品として商品化を模索している。

‐‐イワガキのほかに特産物は。

石倉 地域の自立を画策していたおり、第一弾として出したサザエカレーが思わぬヒットをしている。

地元では、古くからカレーに特産のサザエを使っており、これをヒントに試行錯誤、三年近くかかり、わが国唯一のサザエのレトルトカレーの商品化にこぎ着けた。

二個分のサザエを使い、内臓もすべて入れ込んだ本邦初の特製カレーは、一パック二〇〇g五三〇円。三年たった現在、四万食を売り、五万食を目指して販売戦略をかけている。

‐‐かつては流人の島とされていた隠岐。現在では、素晴らしい大自然の恵みと人間の叡智で次々とアイデア商品が生まれている。これからが楽しみですね。

◆プロフィル

いしくら・いくろう=昭和11年島根県隠岐郡海士村生まれ。34年中央大学法学部卒業。東京重機(株)、全電工業(株)などに勤務後、故郷に大学出の行政マンがいないことに発奮、39年帰郷し役場に勤務。総務課長、収入役を経て平成6年、町長に就任、現在に至る。

〈位置〉隠岐島は、島根県の北東、日本海の中の一群島。有人の四つの主島と一八〇余の小島からなる。島は大別し島前(とうぜん)と島後(とうご)に分かれ、海士町(あまちょう)は島前にある。

〈面積〉三四六平方キロメートル。総海岸線は四六七・五キロメートルにわたる。

〈人口〉平成7年調査で二万六〇七四人。

〈気候〉隠岐近海を流れる対馬暖流の影響を受け、厳冬以外は温暖。平均気温は冬でも三度C以下を下らず、夏でも二六度C以下の暖冬涼夏。

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