この1品が客を呼ぶ:「創作もんじゃ・わやん」チャーシューメンもんじゃ
かつては下町の子供たちのおやつとして親しまれていたもんじゃ焼きが、今ではお好み焼きや焼きそば同様、食事としてとらえられるようになってきた。東京都江東区の「わやん」では、開店以来次々と新感覚のもんじゃを発表し、評判を呼んでいる。今一番の人気を誇る「チャーシューメンもんじゃ」とはいったい、どんなものだろうか。
江東区や葛飾区、墨田区といった、いわゆる下町と呼ばれる一帯には、もんじゃ焼きの専門店が多い。かつて子供たちのおやつとして親しまれた駄菓子屋のもんじゃ焼きのような、昔ながらの味を継承する店もあれば、新感覚のもんじゃ焼きを提供して若い世代から支持されている店もある。
わやんは、そんな新世代もんじゃの象徴とでもいうべき人気店だ。
オーナー店主の斉藤容子さんは言う。
「私も駄菓子屋のもんじゃで育った世代なんです。おいしいとかまずいとかいう以前に、身の回りに当たり前にあったものだから。それでいつしか自分ももんじゃ焼きの店をやりたいと思うようになって、どうせならおやつではなく、食事として食べてもらいたいな、と思ったんです」
オープンは昨年の4月。以来、訪れた客が口々に「もんじゃのイメージが変わった」「もんじゃって、こんな食べ方もあったのか」と驚きの声をあげるという。
そんなわやんの一番人気は「チャーシューメンもんじゃ」(七五〇円)だ。もんじゃのベースとなるキャベツ、焼きそば、揚げ玉、水溶き小麦粉に加え、チャーシューとメンマ、ネギを具材に使用したユニークな一品だ。だが、決して奇をてらっただけのメニューではない。
「チャーシュー、メンマ、ネギなど、一つひとつの具の味や量が変わると、まったく別のものになってしまうんです。だからこの味にたどり着くまで、何度も作り直しました」
理想の具を探し求め、斉藤さんは開業前に何ヵ月もかけていろいろな店を訪ねたという。そうしてようやく完成した味だけに、客の反応もいい。酒を飲んだあとは必ずラーメンで締めるというある客が、このもんじゃに出合って以来「もうラーメンはいらない」と言ったという逸話が残っている。
チャーシューメンもんじゃに限らず、わやんのもんじゃはすべてこの具材の組み合わせとバランスが命。明太子を丸々ひと腹使った「もちめんたいもんじゃ」(一一〇〇円)は、きっちり大きさのそろった上質の明太子を北九州市小倉から空輸する。大ぶりのサケの切り身がのった「鮭バターコーンもんじゃ」(一一〇〇円)も、大きさと厚みを指定して取り寄せるというこだわりようだ。
このほか、一度食べたらクセになると評判の「みそもやしもんじゃ」(七〇〇円)や冬期限定の「カキみそもんじゃ」(九〇〇円)は、斉藤さんをして「ほかに代わりはない」と言わしめる特注のブレンド味噌を使用する。
「一つひとつの素材の味を楽しんでもらう。それがうちのもんじゃなんです。だから味と量のバランスには気を使うし、ほかの店にあるようなトッピングメニューはないんです」
そんな斉藤さんは、常に新メニューの開発に余念がない。オープン当時は三〇種類だったレギュラーメニューも、現在は四〇種を超えている。そして目下開発中なのが、パイナップルを使ったもんじゃだという。
「これまで納豆や餃子を使ったもんじゃを提供してきましたけど、意外ともんじゃって応用の幅が広い食べ物なんです。だからきっとパイナップルも成功すると思うんです」
この記事が紙面に載るころには、きっと完成しているはずだ。
◆「創作もんじゃ・わやん」=東京都江東区亀戸六‐一五‐一八、電話03・5626・9095/坪数席数=一二坪三〇席/営業時間=午後5時~10時
◆記者席からのコメント
その名の通り、まさしくチャーシューメンのような味わいだ。風味豊かなチャーシューの味もさることながら、メンマの歯ごたえが格別だ。加えてネギの風味と仕上げに添えた刻み海苔の香りがいっそうのうまさを引き立てる。
一つひとつの具材が見事なバランスで合わされている。オーソドックスなもんじゃしか知らない者にとっては、かなり衝撃的な味といえる。さらに、もんじゃによく合うというバリ島産のビンタンビールと一緒にいただくと、ハガシですくうのももどかしいくらい、たまらなくおいしい。
◆こだわりの食材 揚げ玉
斉藤さんによると「もんじゃの味を生かすも殺すも揚げ玉次第」なのだという。わやんで使用する揚げ玉は、地元で人気の天ぷら屋に交渉し、直接仕入れに成功したもの。二キログラム分の揚げ玉を週に一、二回仕入れている。これをザルにあけて二日間油抜きをすると、ちょうどもんじゃに適した状態になる。「何軒もの天ぷら屋さんを回って、やっとうちのもんじゃに合う揚げ玉が見つかりました。食感といい風味といい、ぴったりです」
なるほど、そのまま食べてもおいしいが、もんじゃとの相性が抜群だ。