近代メニューのルーツ(4)冷麺編 大阪市・食道園・宗右衛門本店

2003.05.05 268号 15面

冷麺は焼き肉店で欠かせないメニューのひとつ。朝鮮半島からの外来メニューだが、「本場の味」を伝えている店は少ないという。日本での焼き肉専門店の元祖と呼ばれる大阪「食道園」は、冷麺の元祖でもある。そのルーツを聞いた。

焼き肉専門店の元祖、食道園の本店は現在大阪市中央区宗右衛門町にある。

創業者の江崎光雄氏は平壌(ピョンヤン)出身。日本で結婚したのち中国に渡り、昭和13年に中国・山西省太原で平壌冷麺の店「食道園」と、すき焼きの店「松喜」を開業した。店名の食道園は平壌にあった有名な冷麺の店の名前から、松喜は東京・浅草にあった料理屋から取ったという。

日本での創業は21(一九四六)年。大阪千日前の焼け野原の中に「平壌冷麺・食道園」として開業、当時から「元祖・焼肉 冷麺」の看板を掲げていた。

店舗は間口二間半のバラック平屋建てで、木のテーブル四卓、二〇席のこじんまりしたかまえだったが、メニューにはロース、カルピ、ミノ、レバー、タン、センマイ、カルピスープ、ユッケなどの肉類と、キムチ、ザーサイなど、現在の焼き肉メニューがすでにそろっていた。

それでも店の看板に大きく「平壌冷麺」と書かれていたように、当時の店の売りは焼き肉より冷麺だった。

この冷麺(創業時一杯八〇円)は江崎氏が子供のころに平壌で食べた味を再現したもの。そば粉とつなぎに片栗粉を使い、「ご注文を受けてから粉を練る」元祖の味に、「珍しい」という客や、「なつかしい」という大陸からの引き揚げ者らで店は連日超満員だったという。

千日前の興行街の復興とともに、評判が評判を呼び、歌手のペギー葉山、美空ひばり、力道山、伴淳三郎ら有名人の常連客も多かった。

43(一九六八)年に宗右衛門町に移転するのをきっかけに、「朝鮮で生まれ育ったおいしい料理を日本にもっと広めたい。そのためにはホルモン焼きのイメージを一掃して、女性や子供連れでゆっくり食事ができる店をつくる必要がある」と、当時はまだ珍しかった冷暖房や排煙ダクトを完備した大広間や和室席のある大型店を開店した。

この店は従業員が蝶ネクタイを結び、食事前には客に前かけをかけてもらうなどの接客アイデアを実践、まさに現在の「焼き肉レストラン」の先駆けとなった。

その後も店は、45(一九七〇)年に大阪万国博覧会でこの店考案の「焼肉弁当」を販売したり、「無煙ロースター」の開発に協力するなど日本での焼き肉、冷麺の普及に尽力。

54(一九七九)年には、韓国政府から、江崎光雄氏の功績に対して「国民勲章」が贈られている。

◆店舗メモ

食道園・宗右衛門本店/所在地=大阪市中央区宗右衛門町五‐一三、電話06・6211・1455、ほか近畿圏に計一三店舗/営業時間=午前11時30分~午後11時、無休/席数=五〇〇席/主要メニュー/冷麺(八〇〇円)、カルピクッパ(七五〇円)、和牛ロース(一一〇〇円)、上タン(九五〇円)、上ミノ(八八〇円)、生センマイ(六五〇円)、焼肉宴会コース料理(一人前三〇〇〇円~)

◆店主のコメント (株)食道園代表取締役・江崎政雄さん

創業以来五八年、平壌冷麺の伝統の製法で作っています。とくにかたくなに守っているのが、作り置きせずにお客様の注文と同時に粉から練ることと、機械を使わず心をこめて手で練ることです。シコシコとしていてしかもツルリ感のあるおいしい麺は、食道園でしか味わえない本場の味と自負しております。ぜひ、一度ご賞味ください。

◆この食材を愛用しています

○ビーフブイヨン3005R

食道園で使われているビーフブイヨンは、オリジナルのレシピで牛のスネ肉、アバラ肉をふんだんに使ったこの店の特製品である。そのオリジナルブイヨンとほぼ同様の製法でつくられているのが「ビーフブイヨン3005R」だ。炊き出し感があるビーフの風味が生きているのが特徴。常温保存が可能で、二〇~三〇倍にのばして使えるので経済的だ。

◆有明ジャパン(株)(東京都渋谷区恵比寿南三‐二‐一七、電話03・3791・3350)

○鶏高湯

「ビーフブイヨン3005R」と同じく「食道園特製チキンブイヨン」の製法にいちばん近い方法でつくられているのがこの製品。くせがなく鶏本来の味が生きているのが魅力だ。焼き肉料理に欠くことのできないワカメスープから中華料理のベースまで幅広い用途に対応する。ほどよい完成度で、店のアイデア次第で簡単にオリジナルスープに仕立てられるのも人気だ。

◆有明ジャパン(株)(東京都渋谷区恵比寿南三‐二‐一七、電話03・3791・3350)

◆一口メモ

盛岡市も冷麺の街として知られる。昭和29年に朝鮮半島の北部咸興(ハムフン)出身の青木輝人氏が盛岡に「食道園」を開業し、冷麺を販売したのがその起源。

盛岡の冷麺はそば粉を使わない、麺が太いなど当地のオリジナル色が強いものだ。

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