居酒屋チェーンの生き残り戦略-バブルがはじけてどうするか(下)

1992.05.04 3号 7面

トヨタの「カンバン方式」やセブンイレブンの「POS管理システム」は、部品や店頭商品のストック、売れゆき状況を的確に把握する仕組みとして、生産効率やチェーンオペレーションに決定的な成果をもたらしているものであるが、ファーストフードやファミリーレストランと異なって、まだまだ旧態依然としている居酒屋ビジネスにも、こういったシステムが理解され始めてきている。

居酒屋業界におけるPOSシステムなど数値管理の先兵は、いろはにほへと(ドリームフード)や天狗(テンアライド)チェーンであるが、このシステムだとメニューごとのオーダー数や入店者数、時間帯ごとの売上げを把握することができ、食材の受発注や店の売上げ管理に大きな力を発揮する。POSシステムは本部のホストコンピューターとジョイントしているので、本部は即座に全体の営業状況を掴むことができ、これによって店舗ごとのスーパーバイジング機能も発揮することができるのである。

こういったPOS管理システムは、二、三年前から村さ来やつぼ八でも導入され、機能してきているが、しかし、居酒屋業界全体からみると、まだまだ少数派でしかない。ある程度のチェーンスケールと、加盟(FC)店サイドにおいての理解がないと、店舗運営の合理化といっても実現は困難なのである。

FC店は独立資本であるので、自己の店舗が数値的にあからさまになるのは、本部にすべてを把握されることになり、この点でデータ的にオンライン化されることを好まないのである。フランチャイズチェーンシステムの難しいところであるが、しかし、このシステムがコスト吸収の武器となって、収益性の向上に大きな成果を上げると理解されれば、早晩居酒屋ビジネスでも、ファーストフードチェーンやファミリーレストラン並みに、導入が活発化してくるものと期待される。

居酒屋チェーンビジネスの原則は、前項でも述べてきたように、一人あたりの消費単価的が二五〇〇円以内と「安い」ということである。これを踏まえてさらに付け加えれば、メニューがバラエティに富んでいる、ある程度の店の規模があり、フランクな雰囲気で入りやすいということであろう。

日本人の感覚はオモシロイ。欧米人はビールでもウイスキーでも、アルコールを飲むときはワインでもない限り、料理をとらないのであるが、日本ではテーブルいっぱいに「おかず」を並べて、むしろアルコールはアペリテフという趣きでノミュニケーションに興じている。

いわば酒場と食堂の合体した形が居酒屋チェーンなのである。極論かも知れないが、そういうイメージがあり、雰囲気がある。そうでなくては“おかずメニュー”が一二三〇もラインアップされるはずがない。

現にどこのチェーンでもおにぎりや定食、どんぶりものなどの食事メニューをおいている。冬場には鍋物が出るが、最後はごはんをとって雑炊ということになる。欧米のバーやビヤホールにおいては、まずはみられない風景であるが、日本の居酒屋ビジネスではあたり前のことになっている。

このため、わが居酒屋ビジネスでは「定番メニュー」をおさえながら、他チェーンにない「おかずメニュー」を商品化することが大きなポイントになるのである。

最近はシーフードブームであるが、この分野のメニューを豊かにするには、新鮮な魚介類を多く確保することが重要になってくる。もちろん、単なる量の問題ばかりではない。

人の味覚が肥え、リッチになっているので種類的にも多品種で変化に富んでいなければならない。

若者の間では肉のニーズも強い。サイコロステーキや、串焼、ヤキトリ、トリの唐揚などは、どこのチェーンにもある定番メニューであるが、若い女性客のためにはサラダ類、フルーツ、アイスクリーム、シャーベットなどのデザート類もラインアップしており、まるで“デパート食堂”といったありさまである。

メニューは男女ごとの好みや年齢層においても、それぞれの工夫がある。中年層などオジサマ族にウケているのは刺身か煮込み、豆腐類、珍味といった“オールドファッションメニュー”であるが、若い人たちは肉や串焼、サラダなどが好みとなっている。

場所によっては日曜・休日などにはファミリー客の利用の多いところもある。三〇代の夫婦に低学年の子供二人という図式が一般的で、パパがアルコールと好みのツマミ、ママはポテト類の無国籍料理やサラダ類、子供たちはオムレツや唐揚、ポテトなど。一面においてはファミリーレストラン的な利用形態である。

このため、鮒忠チェーンなどにおいては、“居酒屋チェーン”というイメージを払拭しようとしており、居酒屋というカテゴリーを否定している。鮒忠は郊外、ダウンタウン、商業立地の三タイプのロケーションで、直営、FC店合わせ全国に一五〇店をチェーン化しているのであるが、この出店コンセプトをうなぎ、串焼きの“和食レストラン”と位置づけている。

つまり、アルコール本位でもよく、逆に食事本位でも構わない、多様な飲食ニーズに対応していこうという出店戦略なのである。バブルがハジケ、また社会の成熟度が高まっている現在、居酒屋ビジネスも新たな戦略転換を迫られてきているといえる。

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