いまチーズは旬 「ナチュラルチーズ」 卓越した伝承製法

1992.05.04 3号 24面

今食生活の国際化、個性化、またグルメ志向のなかにあって、ナチュラルチーズは、食卓を演出する新鮮な、魅力的な食材として、幅広い層に浸透しつつある。一方健康への関心が非常に高まりつつある時代にあって数千年もの間、すぐれた発酵食品として食べられているチーズは、ヘルシーな食品として、特にカルシウムの不足勝ちなわれわれ日本人にとって豊富なカルシウム源である。ヘルシーな食品として一層その価値が認められるといえよう。

この上ないおいしさ、ひいては最高の楽しみのことを「醍醐味」といっているがそもそもこの醍醐なる言葉の由来は仏典「般若経」に「牛より乳を出し、乳より酪を出し、酪より生酥を出し、生酥より熟酥を出し、熟酥より醍醐を出す、醍醐は最高なり」と記されている様に現在のチーズのようなものをさしている古代乳製品の味のことである。

チーズの芳醇な味わい、この魅力的な食べ物は前述した様に、何千年も昔に中近東を中心とする西アジアで生まれ、ギリシャに渡ってイタリアで発達、さらにヨーロッパ各地に伝えられ、それぞれの風土と文化に育まれて、現在の様なチーズに成長した。

一口にチーズといってもその種類は八〇〇種とも一〇〇〇種ともいわれ極めて多岐にわたっている。今回はその中でフランスのチーズを中心に紹介したい。

第二次世界大戦中のドイツ占領下のフランスについて、イギリスの故チャーチル卿は「三〇〇種類以上のチーズを世界中に提供できる国フランスは滅びはしまい」一方、故ドゴール大統領は「六〇〇種類もあるチーズの国を統治するのは難しい」と語ったともいわれる。それほどフランスはそれぞれ個性のある多種多様のチーズがつくられ、世界に稀なチーズ王国を誇っている。しかもフランスではワインの種類も多く、それぞれチーズに合った同じ地方のワインが組み合わされて食卓に欠かせない存在となっている。

元来チーズはその土地の地質、気候、飼料、乳の種類など、自然の環境に大きく左右される産物で、それ故に土地毎の特色を強く反映している食品である。しかし、近年、酪農の近代化や集約化はフランスにおいても著るしく、チーズに対する影響にもまぬがれないものがある。

そこで、フランスではノルマンデーのカマンベールチーズやロックフォールチーズのように伝統的な名チーズに対し、その卓越した伝承的製法、技術とすぐれた品質を法的に保護、規制するためにAOC(Appellation d’Origine Controlee)という原産地呼称制度が適用されている。

現在AOCが許可されているのは約五〇〇種以上あるといわれるフランチーズのうち、わずかに三二種のみ。いかにこのAOCの規準が厳しいかがわかる。

さて代表的なフランスチーズを紹介したい。ナチュラルチーズの分類は大変むずかしいが、ここでは便宜上、フレッシュタイプ、白かびタイプ、ウォッシュタイプ、シェーヴル(山羊)チーズ、青かびタイプ、半硬質タイプ、硬質、超硬質タイプの七つに分け、あわせて買う時の注意、食べ頃、保存法について簡単に紹介したい。

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