富士産業、災害時の調理支援「キッチンカー」披露
病院・福祉施設を中心に全国で約1500ヵ所の給食施設を受託している富士産業(株)(東京都港区、電話03・5400・6111)は、災害時の調理支援が目的の移動調理システム「キッチンカー」2号車(写真は8t車)を宮崎で4月19日、お披露目した。1号車(4t車)を昨年3月に京都で導入したところ、厨房の建て替えや修理の応援でフル稼働している。
そもそもは、阪神淡路大震災、新潟中越地震、台風被害など、災害のたびに身体的弱者の患者や高齢者の食事確保に腐心してきた同社が、冷凍の完全調理済食品を非常用としてメーカー、問屋、営業所に落とし込むシステムを構築したことから、食事提供のハード機能としてキッチンカー構想が生まれた。
中村成彦富士産業社長は、このプロジェクトを「信頼と真心を込めた新しいサービス」として推進している。
キッチンカー2号車は電磁調理機3口1台、スチームコンベクション2台、立体炊飯器3段1台、冷凍冷蔵庫3台、食器洗浄機1台を搭載し、インフラは自動発電機、貯水タンクによる自己完結型と、外部から電気と水を引いて使用計測メーターによって使用料金を支払うダブルスタンダードになっている。
運転席にはコンピューターを備え、食材の受発注や厨房内のモニターもあり、栄養士の司令室となる。完調品システムと連動させると1回当たり400~500人分の食事提供が可能となる。
病院の食事は常食、刻み食、ペースト食と、患者の状態によって提供スタイルは多様だ。富士産業は全国から12人の栄養士を選抜して、食材卸の子会社ニッショクと連携し、3年がかりで食材、メニューを作り上げ、3日分の非常時食システムを構築した。
非常時食として一般に普及している食品には、カンパンや缶詰などがある。しかし、ほとんどは備蓄して賞味期限が切れると廃棄もしくは無料配布して入れ替えるというように経済効率が悪く、日常の食事には程遠い。
完調品システムは日常の料理なので、非常時に備えて営業所でストックして1ヵ月以内に通常の献立に落とし込んで使い切る。そして新たにストックするというように、日々の営業の中で備蓄食品(料理)が循環するシステムになっている。万が一災害が起きた時には、速やかに問屋、メーカー、近隣の営業所から不足分が送り込まれる。
完調品は現在30種類で、ホテルの朝食バイキング並みの品揃えをしている。一品一品栄養計算、原価計算されており、今後も商品開発には力を入れていく。
キッチンカー1号車による1年間の反応は、まず保健所の営業許可だが、前例が無いとの理由で苦労したところもあったが、おおむね了承が得られている。
委託先の反響は予想以上に良いという。というのも、厨房の修理修繕時の仮設厨房として安全設計でコンパクト、運用実績が出てきてスムーズになったことから要請が相次いでいるのだという。
また厨房の都合で喫食者に迷惑をかけずに、日常と同じ献立料理を提供できることが高く評価されている。調理員は調理加工の制約に違和感なく調理でき、施設側は想像以上の食事に驚きの声が多いという。
問題点は、食数が多い場合の盛り付け。そこで盛り付け用の専用車両を造って解決した。2号車(8t)は1号車(4t)の運用実績を基に造られた車両であり、今後はこの2台の運用実績を検討しながら、3号車以降へつなげていく。
厨房(ハード)と食事(ソフト)が一体となって機能する災害対策のシステムづくりは、食品業界の今後の大きな課題でもある。