町で見つけた感動のすごい店:米子市万能町・居酒屋「一代」
鳥取県米子市といえば、中国一の名山大山と山陰一の漁港境港にはさまれた町。大山地鶏と日本海の新鮮な魚介類が名物だ。そんな米子の山海の幸を思う存分堪能させてくれる居酒屋「一代」を久しぶりに訪ねた。
筆者が「一代」を知ったのは5年前。最終の米子空港行きリムジンバスの発車時刻まで少し時間があったので、切符を買った交通会社の人にイチオシの居酒屋を紹介してもらったのだった。店は駅前通りから入った裏路地にあるビルの2階。決して立地条件は良くないのに、開店直後からお客がドンドンと入っていく。その合間をぬって、新鮮な魚もドンドンと厨房に運び込まれていた。
100人近く入る広い店は、開店して1時間もたつとほぼ満席状態。その時に食べたつみれ鍋の味とお店の活気が印象に残り、また米子に来ることがあれば必ず立ち寄ろうと思っていたのが実現したのだ。
今回はピークが終わった午後9時過ぎに訪問。前回と同じくまずは日本海の海の幸を一通り食べた後、お店の名物「大山地鶏のつみれ鍋」を注文。つみれ鍋は1人前ずつ注文でき、固形燃料で小鍋を熱するスタイル。味噌味ベースの凝ったスープに、ピンポン玉くらいの大きさの手作りつみれと野菜が入っている。煮上がったころ合いを見計らって蓋を取ると、湯気と一緒に香ばしい風味が漂う。
スープの表面にはラー油のようなものが浮いている。板さんに尋ねると「同じ業界の人ですか?」と言われたが、「怪しいものではない、5年前に来ておいしかったから」としつこく聞くと、「あまり詳しく言えないけどコチュジャンなども入れてます」とのこと。あっさりしているのにコクがあり、まろやかなのにパンチも効いている。一度食べたら、はまる味だ。
大山地鶏のつみれはフワフワの食感、「せせぎ」という鶏の首の部分の肉を使っているので、歯応えがあるのに軟らかく最高のスープが出るという。野菜はモヤシとニラとネギしか入れていない。スープを薄めてしまうものは極力入れないのだそうだ。おいしさは前回食べたものとまったく変わらない。5年前の感動がはっきりとよみがえった。
マスターがいないので尋ねると、今ギックリ腰で入院中と奥さんが教えてくれた。心なしか店内の活気が前回とは異なる。時間帯が遅いこともあるが、決して混んでいるとは言いがたい。「最近週末以外はあまり満席にならない」と言う奥さん。
地方都市の場合、飲酒運転の取り締まり強化が客数減にかなりの影響を及ぼしていることも確かだ。これだけおいしい料理を出しているのに、お客が減るなんて都会では考えられないことだ。米子の人は本当にもったいないことをしている。外レスの読者の皆さんで米子に出張に行く人や近くに住んでいる人は、ぜひ「一代」を訪ねてほしい。名物「大山地鶏のつみれ鍋」を食べれば、きっと感動してもらえるはずだ。
◆居酒屋「一代」(鳥取県米子市万能町177、パワービル2階)
(繁盛店評論家・谷やん)