外食史に残したいロングセラー探訪(12)古奈屋巣鴨本店「カレーうどん+えび天」
今や「おばあちゃんの原宿」として、全国に知られている巣鴨の「とげ抜き地蔵尊」。そのすぐ傍らに、常に長い列ができるうどん屋がある。この店、「古奈屋」の名物「カレーうどん」は、どこにもない味として長い間愛されているが、ここ数年は、汐留、六本木、丸の内などの大型商業施設にも出店し、さらに多くのファンを獲得し続けている。
(株)古奈屋代表取締役の戸川貞一氏が、東京の巣鴨で「古奈屋」を始めたのは1983年のこと。
元芸能プロダクション社長の戸川氏は、オープン当初から「全国に通用するスターが1人いればプロダクションは有名になるが、メニューもタレントと同じなのでは……。ならば、ファンを引きつけるための、スターを生み出さなければ」と考えていたという。
そして、当時約20種類あったメニューの中から、戸川氏が選んだスター候補が「カレーうどん」であった。それは「カレーもうどんも国民食。なのに、そば屋でもうどん屋でも、カレーうどんはいつもメニューの片隅で、看板商品にしているところはない。カレーもうどんも、両方ともおいしければ、ヒットするのでは?」という思いからだ。
それから、カレーうどんをスターにするための試行錯誤の日々が始まった。
なかなか納得のいく味にたどり着けなかったという戸川氏のヒントとなったのは、子どものころに食べたカレーの記憶であった。
大家族用に大きな鍋で作ったカレーは2日目の方がおいしいかったこと、体が弱く、好き嫌いが多かったため食事のたびに飲まされていた牛乳を、父親好みの辛いカレーにたらしてみたところ、まろやかになり、食べやすかったこと……。こうして、戸川氏の求める「カレーうどん」のイメージが固まった。
カレールーは、豚ばら肉、玉ネギ、ニンジン、リンゴなど20種類以上の具材が使われているが、「スープを飲むときに、具が唇に当たり邪魔だから」と、すべて小さく切り、よく炒めてから煮込み、形の残らないなめらかなポタージュ状にして3日越しで熟成させている。そして、カレーの辛さと牛乳によって濃厚なだしの味や香りが抑えられ、コクへと変わった。このなめらかさとコクが、最後までスープを飲み干すお客も多い古奈屋のカレーうどんの最大の特徴である。
そして現在、同店を代表する「えび天カレーうどん」「もちカレーうどん」は、「天ぷら」と「カレー」で迷っていた常連客の「カレーうどんの上に揚げもちをのせてはダメ?」のひと言から誕生。以来、「同じものを」「エビ天ものせて」と注文するお客が増えていき、それまで「おいしいうどんとスープだけで食べさせたい」と彩りのキヌサヤ以外、あえて何ものせなかった戸川氏だが、「天ぷらをのせたところで味が変わるわけではない」と、常連の裏メニューから正式なメニューとして採用した。
どこにでもあるカレーうどんを「どこにもない味」に高めた古奈屋。現在は13店舗展開し、その味を広め続けている。
●店舗データ
「古奈屋 巣鴨本店」/経営=(株)古奈屋/店舗所在地=東京都豊島区巣鴨3-37-1/開業=1983年2月/営業時間=午前11時~午後8時/定休日=元日/坪数・席数=8坪・11席/客単価=1200円/平均月商=600万円/現在、都内を中心に13店舗展開中
◆こだわり食材
人口10万人当たりの「うどん屋」店舗数で香川県と全国トップを争うという群馬県出身の戸川氏は、自分の味の「おいしいうどん」を作り上げるために、たとえぜいたくでも、素材選びに妥協しなかったという。
まず、かえしに使っている醤油は、2種類の薄口醤油をブレンドしたもの。
カレースープに使われる野菜類は、特に産地にこだわらず、そのときに入るおいしい野菜を使用している。
「揚げもち」は、新潟県産のもち米を使ったもちを、店舗でオーダーが入った際に素揚げしているという。
店舗展開と同時に冷凍麺の開発を行い、現在は店舗での使用だけではなく、「古奈屋冷凍カレーうどん」として商品化し、通信販売やギフト品として百貨店での販売も行っている。