飲食店成功の知恵(43)開店編 繁華街立地特性を読む
昔から繁華街は、飲食店にとっての超一等地とされている。朝から晩まで人の流れが途切れない。不特定多数の人びとがどんどん流れ込んでいるから、商圏はとてつもなく広い。これだけ人がいるのだから、とりあえずお客の入りが見込める。新しいお客もどんどんできる、というわけだ。しかし、昔はともかく、いまも本当に繁華街は超一等地であり続けているのだろうか。
その答えを探すには、実際に繁華街に出かけて、その様子をつぶさに観察してみるといい。断言してもいいが、端から端まですべてのお店が、そこそこ繁盛しているなどということはあり得ない。
そんなことは当たり前じゃないか、と思うだろう。ではなぜ、当たり前なのか。超一等地に出店していながらなぜ、繁盛できないのか。ここが大事なところなのだ。
たしかに繁華街は、店前通行量が多い。しかし、その人びとがすべて、自店のお客になるわけではない。誤解しやすいのがこの点である。こういわれると、いや、せいぜい五%の人たちが入ってくれれば十分と思っている、と反論する経営者がいるが、そのことの意味を本当に分かっている経営者のグループと、そうでないグループとに必ず分かれる。別のいい方をすれば、繁盛店と不振店である。
店前通行量とは、あくまでひとつの目安に過ぎない。それが多ければ来店数が増える確率は高くはなるが、絶対の保証ではない。繁盛店と不振店とが同じ通りに隣り合わせにあるのは、その証拠である。
お客とは、自店の前の通行人の中で自店を選んでくれた人のことをいう。それ以外は、ただの通行人でしかない。そして、お客に選んでもらうためには、それなりの魅力がなければならない。その上での店前通行量による確率なのである。
飲食業は二等地、三等地を自店だけの一等地に変えてしまうことのできる素晴らしい業種、というのが私の持論だが、逆にいえば、一等地だからといって必ずしも、すべてのお店にとって有利に働くわけではない。とりわけ繁華街は、店数が圧倒的に多い。競合店だらけである。むろん、いい加減な営業態度でありながらけっこう繁盛しているという事例はある。しかし、そういう例外を夢見るには、家賃・保証金の高い繁華街のリスクはあまりに大きい。
不特定多数の人びとでごった返しているのだから、その大半の人びとには土地カンがないと考えるべきだ。つまり、自店の前を同じ人が何度も歩いてくれるわけではない、ということだ。一度通り過ぎたら、二度と通ってはくれないのかもしれない。
繁華街ではだから、とにかく目立つことが繁盛の必要条件になる。目立たなければ、何か他の目的を持っていたり、あるいは全く目的意識を持たずに歩いている人びとの目には、自店の存在はないに等しい。通行人にとって繁華街とは、無数の飲食店の巨大な集合体なのである。
目立つにはどうすればよいのか。ポイントは看板である。お店の前に置く立て看板にしろ、ビルの外壁に取り付ける袖看板にしろ、できるだけ大きく、遠視効果の強いものが望ましい。ただし、看板の設置については、ビルによってさまざまな制約が課せられていることが多い。だから、繁華街での物件探しの時には、この点をとくに重視し、細かく確認する必要がある。
目立つ看板のほか、サンプルケースを店頭(あるいはビルの入口など)に置ければ、なおいい。土地カンのない人にとって、はじめて入るお店とは不安なものだ。最低、メニュー表だけでも掲示しておきたい。
フードサービスコンサルタントグループ チーフコンサルタント 宇井義行