飲食店成功の知恵(64)開店編 調理マニュアルの必要性

1995.04.17 74号 4面

飲食店の料理は商品である。お客は料金を支払う。ここが家庭料理や趣味の料理との根本的な違いである。

こんなことをいうと、何を当たり前のことを、と思う人もいるだろう。いわれるまでもなく、これは誰でも知っていることである。しかし、常識と実際は別だ。作る人間によって出てくる料理が違うなどあってはならないことなのに、現実にはそんなお店はいくらでもある。

料金をいただく商品であるからには、お店の料理はすべて、調理を担当する全員が同じものを作らなければならない。今日は新人が作りましたから、などという言い訳は絶対に通用しない。だから、調理マニュアルが必要なのだ。

同じものを作るとは、作業も標準化するということだ。誰が作っても効率よく均質の料理を提供できるようにした指示書。それが調理マニュアルである。標準化する点は、次の五つである。

(1)味(2)量(3)盛りつけ(4)材料費(5)調理時間

ところで、調理マニュアルというと調理手順の標準化だけしか考えないお店が少なくないのだが、それは違う。調理は仕込みから始まるのである。この段階がいい加減だったり、手抜きや不慣れな作業があったりすると、結局、同じ商品は作れない。

そこで私は、調理マニュアルを(1)仕込み基準表と(2)メニュー基準表に分けて作るように指導している。

仕込み基準表ではまず、一度に何十人分を仕込むのかを決め、すべての使用材料の数量と単価、合計金額、一人前当たりの原価率を記入する。もちろん、調味料類も含む。ちなみに、ここでいう合計金額とは材料原価だから、人数で割れば簡単に原価率が算出できる。

また、各材料の分量は正確に記入することが大切だ。ここで目分量になっては、マニュアルすべてが台なしになってしまう。塩梅というくらいで、料理はちょっとした加減で味がガラリと変わるものなのだ。さらに、作業手順として、使用する道具や機器類、所要時間、注意事項まできめ細かく指示しておくこと。これくらいは分かるだろう、というのではいけない。あくまでマニュアル通りにやればいつでも同じ結果になるようにしておくことが基本である。

メニュー基準表は、お客のオーダーを受けてからの最終調理を標準化したものだ。調理手順についてはいうまでもないが、盛りつけの標準化も大事なポイントである。仕込みをきちんとし、同じ味の料理に仕上げても、見栄えにバラツキがあるのでは、同じ商品とはいえないのだ。よくサンプルやメニュー表の写真とは全然違う盛りつけ=いい加減な盛りつけを平気でしているお店があるが、あれは一種の詐欺行為である。

もちろん、季節や仕入れ値の関係で付け合わせの野菜などを変えることはあり得る。商品政策としてもそれは必要なことだ。しかし、それはそれでマニュアル化をされていなければならないのだし、見た目のバラツキとは次元が違う。

したがって、メニュー基準表にはサンプルやメニュー表と同じ完成品の写真を貼付しておく必要がある。写真だけで分かりにくいようなら、盛りつけ手順をイラストで示しておくといい。

なお、仕込み基準表とメニュー基準表はどちらも、季節ごとに年四回作成すべきである。使用する材料の変動があるからだが、念のため代用材料も想定しておくとあとで困らない。また、食器の追加注文の時のため、注文番号と値段も記入しておくと便利である。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

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