淘汰進む居酒屋チェーン “手作り”がキーワード 商品開発力で明暗

1995.04.17 74号 9面

居酒屋チェーンの淘汰が始まっている。少量・多品種のメニュー構成とライトアルコールの豊富さをチェーンコンセプトとする居酒屋チェーンは、その値ごろ感と気楽さが大衆から根強く支持され、景気にも左右されにくいとされていた。順調に出店を進めてきた業態だが、最近は景気以外のあおりを受けてチェーン同士の勢力争いが熾烈化している。居酒屋業態では一体何が起こっているのか。

千円企画が人気●庄 や

アルコールよりも料理を重視。手作りと旬、新鮮さにこだわる。健康を意識してほとんどのメニューに高麗ニンジンを使うなどオリジナリティーにあふれる。食材については、養殖事業を手掛けたり仲卸を傘下に擁するなどして流通コストを徹底的に削減。価格、品質に反映させている。

定期的に行う「マグロ・ハマチ食べ放題」「すき焼食べ放題」「飲み放題」の一〇〇〇円企画は、同チェーンの目玉として大人気。昨年は株式の店頭公開、海外出店も果たした。

売れ筋戦略徹底●天 狗

FRやFFを上回るCK(セントラルキッチン)を有するなど、そのシステム化は居酒屋チェーンの最先端を走るとして定評がある。毎日グランドメニューを入れ替える徹底した売れ筋戦略で効率化を図る。

最近はランチメニューやロードサイド事業に乗り出すなど多角化を推進。ランチで四八〇円の「すき焼定食」は行列が出来るのもしばしば。居酒屋チェーンとしては唯一、株式二部上場を果たしている。すべて直営。

ケータリングも●和 民

手作りを売り物に展開。メニューの仕込みは、日中に料理のセミプロである主婦(パート)が行い、フレッシュ素材を前面に打ち出した戦略を講じる。最近、ほかに手掛ける宅配ピザとの複合化で、居酒屋メニューのケータリング行うなどユニークな取り組みも見せる。

産地直送の仕入れを強化するなど新鮮さで他店と差別化を図っている。すべて直営店。

「最近、居酒屋業態ではチェーンの勝ち負けが明確化してきた。勝ち組は『庄や』『和民』『天狗』など、手作りや直営をモットーとするチェーン。負け組は調理済みの冷凍食材に依存する旧態依然とするチェーン。売上げで見ると、勝ち組は前年比一〇〇~一〇五%、負け組は九〇~九五%」‐‐ある酒類業者はこう打ち明ける。勝敗の明暗を分けたのは、立地やサービスよりも、まず商品開発力の差に尽きるという。

率直にいえば、消費者 →→ が調理済みの冷凍食品に飽きている。いつまでもそればかりに依存するチェーンが脱落したということだ。

従来の居酒屋チェーンの人気は、少量・多品種のメニュー構成とライトアルコールの豊富さ、また照明を明るくしたり、価格を時価から定価に転換するなど気軽な雰囲気を打ち出したコンセプトに支えられていた。そのコンセプトは、女性客を集客するなど居酒屋業態に改革をもたらした。

しかし、脱サラや調理未経験者が手掛けるケースの多い居酒屋チェーンで、それらをこなすには、調理済みの冷凍食材が不可欠。そのため、さまざまなチェーン店が出店されるが、味はいずこも似たり寄ったりで消費者が飽きてしまっているのが現状なのだ。

まして昨今はFR(ファミリーレストラン)など異業種からの参入やアルコールメニューに注力したカジュアルレストランが増えており、アフター5の外食は業種の壁が失われつつある。居酒屋チェーンでしか見られなかったメニューも、市販市場、外食を問わず出回っており珍しくもなくなった。売り物である“値ごろ感”もおりからの低価格志向のあおりで色あせている。かつての居酒屋チェーンのアイデンティティーは通用しない時期にさしかかっているといえよう。

勝ち組のチェーンに共通するテーマは一致する。“値ごろ感”から“値打ち感”のあるメニュー戦略、つまり本物志向や目玉メニューなどの商品開発。またそのチェーンでしかないオリジナリティーを出すことだ。キーワードはやはり“手作り”になる。

「居酒屋には定食でない食事が求められている。つまみと認識した商品開発ではダメ」((株)ワタミフードサービス・渡辺美樹社長)、「少量・多品種をさらに細分化したメニューを同予算で品数多く食べたいニーズが高まっている」((株)大庄・平辰社長)と、訴求ポイントを指摘する。

既存チェーンが、これ以上メニューアイテムを増やし、品質を上げることは至難の技。今後は、本部のスケールメリットを生かした商品開発力、仕入れ力などが勝負の分かれ目となるだろう。居酒屋チェーンは業態に一大改革を起こした。保証金、加盟金欲しさの開店屋じみたチェーン。食材供給一辺倒の利ザヤ主義のチェーン。形態はさまざまある。しかし、次世代を担うのは、本部が繁栄時に新時代をにらんだ積立てを残したチェーンに限られそうだ。

「CVSに代表されるように他の業種は以前にも増して品質、品揃えが向上している。そのスピードについてゆけない居酒屋は、外食の意味すらなくすでしょう」(渡辺社長)とする指摘が現実となるのは、そう遠くなさそうだ。

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