外食史に残したいロングセラー探訪(83)ひさご「親子丼」
京都で親子丼といえば、まず名前が挙がる「ひさご」。本来は、そば屋だが、昼時や週末には、親子丼を求めて行列ができる。80年以上、祇園界隈で親しまれている同店が全国区になったのは、ある料理評論家が、テレビ番組で親子丼を紹介してから。一時は脚光を浴びても、消えていく店が多い中、同店は、その後20年以上たっても、いまだに行列が絶えない。地元の方や観光客たちに愛され続けている。
●商品の発祥:メディアに出てから火がついた
1930年1月、初代店主の多賀寅之助さんが、そば屋として創業した。場所がら茶屋への出前が主であり、注文の9割が出前だったという。当時の看板メニューは「にしんそば」。親子丼は創業時からあったものの、テレビ番組で紹介されるまでは、今ほど脚光を浴びてはいなかった。
出前がメーンの時代、茶屋を訪れていた黒澤明監督が、同店の親子丼を食べ、とても気に入ってくれた。その影響もあり「数々の名監督や芸能人の方々に、ひいきにしていただきました。今でも、ご注文をいただきます」と、3代目の店主・多賀大祐さん。
●商品の特徴:京都らしさを味わう
親子丼のだしは、上質な昆布と鯖節からとる。品質が高い物は、料理店の間で取り合いのような状態になるが、先代からの教えを守り、質は落とさない。濃いめのだしに、朝締めされて甘味のある鶏肉と、色鮮やかで軟らかな九条ネギが、フワフワトロトロの卵でとじられている。
フワッと仕上げるポイントの火加減やだしとの調和は、「毎日してても、難しい」と大祐さん。全体が、山吹色に仕上がったところへ、香りのいいサンショウをかけ、京都らしさあふれる親子丼が完成する。
●販売実績:8割が親子丼
親子丼は、1日に通常150~200食、春と秋の京都観光ハイシーズンには、400食くらい出るという。全体の注文数の約8割を占める人気ぶりで、全席、親子丼を食べていることもあるとか。かつて9割を占めていた出前は、時代が変わり1割程度になった。
大祐さんは、「作り方は、見よう見まねで覚えました。経験が浅いとき、常連さんに、いつもと味が違うと怒られたこともあります。2日後にいらしたときには、おいしいと言っていただけて、ホッとしたことは今でも覚えています。チャレンジ精神を忘れず、これからもずっと愛され続ける店作りをしていきたいですね」と語る。
●企業データ
店舗名=「ひさご」/所在地=京都市東山区下河原通八坂鳥居前下ル下河原町484/事業内容=飲食店。親子丼が有名だが、本来はそば屋。最初にテレビ取材を受けたのは「にしんそば」だった(NHK)。にしんそばのニシンは、3日かけて味付けをする。箸を入れて、すっと切れる軟らかさ。