外食史に残したいロングセラー探訪(86)京都 中華のサカイ本店「冷めん・焼豚入り」
◇一年中「夏メニュー」が楽しめる たれを作れるのはただ一人
京都市内で一番長い商店街の新大宮商店街。その商店街の中に、季節に関係なく「冷めん」が楽しめる「京都 中華のサカイ本店」がある。同店の「冷めん」とは、一般的に「冷やし中華」と呼ばれているメニュー。店主しか作り方を知らない秘伝のたれと、太めのかみ心地のいい麺を味わうため、他府県からわざわざ訪れる人も多い。開店から75年たつ今でも、根強いファンに支持され続けている。
●商品の発祥:喫茶店から始まった
創業は1939年。洋食屋で修業経験があった土田清三郎さんは、カレーライスや豚カツなどの洋食メニューを出す喫茶店を開いた。ところが、戦後の食糧難になると、材料が手に入らない。そんな時、中華料理に出合う。「中華なら食材を端から端まで使える。これからは中華料理の時代が始まる」とラーメンや焼き飯を出すようになった。
冷麺を出すようになったのは1953年から。「どこかで冷麺を食べて、おいしかったんやと思います。再現してもっとおいしくなるよう3~5年、たれも麺も試行錯誤を繰り返してました」と、2代目店主の土田尚紀さんは話す。
●商品の特徴:作り方は門外不出!秘伝のレシピ
冷麺のたれの製法を知る人は、同店では土田尚紀さん一人。米酢、醤油、自家製マヨネーズ、スープ、からしなどを使って、独特の酸味とコクのある秘伝のたれを作る。そのため、たれ作りは、従業員が出勤する前の朝と、帰宅後の夜10時から行う徹底ぶりだ。麺は、太めでシコシコと腰があり、クチナシの実でほんのり黄色にしている。
関西では、冷やし中華を冷麺ということが多い。メニューの言い方で、遠くからの訪問かどうかが分かるという。
●販売実績:焼豚入りが人気
冷麺は、夏は200~300食、冬でも50食くらいの注文が入る。通信販売もしており、夏は1日平均200食、多いときは500食も出る人気ぶり。焼豚入りとハム入りがあり、7割が焼豚入りを注文する。
冷麺を、冬にも出すようになったのは、平成になった頃。冷麺を目当てに、わざわざ遠方から来店くださる方たちのために、年間メニューにした。
入院中の病院を抜け出して、たれを作ったこともある土田尚紀さん。守り抜く原動力についてたずねると、「よそにはないもんを作っているという誇りと、しんどくても、お客さんにおいしいもんを出したいという使命感ですかね」と語った。
●企業データ
社名=京都 中華のサカイ本店/所在地=京都市北区紫野上門前町92/事業内容=飲食店経営。今でも、喫茶店だった頃のなごりを感じさせるメニュー「オムライス」がある。土田店主の弟が経営する「中華のサカイ みその橋店」もあるが、経営は別。冷めんの詳細なレシピはなく、兄弟は父親である創業者から、目と舌などで学んでおり、微妙に味が違う。