フードコンサルティング 上場企業にモノ申す(32)松屋フーズ いつまで続く既存店不振
●昨対増は24ヵ月中2ヵ月のみ
牛丼チェーンの御三家といえば首位「すき家」と老舗の「吉野家」、そして3番手が当社「松屋」である。ご存じの通り、3社は数年前から「牛丼戦争」と呼ばれる激しい価格競争を続けており、今では3社とも既存店売上げが前年を下回る低迷状態がすっかり定着してしまった感がある。3グループ寡占状態の牛丼市場で、ライバル同士がつぶし合う典型的な消耗戦が繰り広げられているのである。
この結果、同社の場合は2012年3月に既存店売上げが100%を超えて以来、昨年12月に一度だけ上回ったものの、2014年2月までの2年間で昨年の売上げを超えたのがわずか2ヵ月だけというジリ貧状態で、まさに「牛丼戦争」のあおりをまともに受けている。
●「牛すき鍋」競争では一人負け
ご記憶にある読者もいらっしゃると思うが、本稿にて約3年前に「吉野家」の記事を書いたのだが、その当時から値下げと割引券を乱発する「牛丼戦争」が始まっていた。当時は「吉野家」が値下げのリード役で、そこに「すき家」と「松屋」が続くパターンが繰り返されていたのだが、当時から外食関係者の多くがいずれ3社とも行き詰まると感じていた。
この安値が限界に達した「牛丼競争」から脱出すべく、昨年12月にまたもや「吉野家」が先陣を切って「牛すき鍋膳」の販売を開始。これが意外な大当たりとなったことを見て、今年2月には「すき家」も「牛すき鍋定食」を投入。そのかいあって、「すき家」はなんと約2年半ぶりに2月の既存店売上げが前年を超えるという「快挙」を果たした。
一方、当社「松屋」も「すき焼き鍋膳」の名称で「牛すき鍋」競争に参戦したものの、提供する店舗が全体の半数強と限定されており、しかも提供時間も夕方5時から早朝5時までの限定メニューの扱いとなっているため、当然ながら出数が伸びていない。
まさか新商品に自信がないためとは思えないが、中途半端な扱いとなっていることから当然ながら競合2社ほどのインパクトはなく、かえって競合の動きを見てあわてて投入した感さえ感じられるのである。既存店の不振を覆すのは、これでは無理なのは明白ではないか。
●吉野家と同じパターン?
既存店の不振は続いているが、会社全体で見るとかろうじて増収が続いている。もはや本紙読者の方には説明は不要であろうが、既存店の不振を新規出店で補う「いつもの」パターンの増収である。
実際、2011年3月期の売上高702億円から直近2013年3月期は売上高790億円まで、業容は順調に拡大しているかのように見える。
しかしながら、利益面で同じ時期を比較すると、経常利益ベースでは47億円(2011年3月期)から、19億円(2013年3月期)まで約4割の水準まで落ち込んでいるのである。しかも財務面に目を向けると、有利子負債は90億円(2011年3月期)から198億円(2013年3月期)まで、わずか2年間で2倍以上も急増しているのである。
既存店が不振続きのまま、それをカバーすべく新規出店を続け、出店費用は有利子負債で賄う。これはまさに同業の「吉野家」と同じパターンではなかろうか。
●そろそろ独自色を出さないと
関係者からは「余計なお世話」と言われそうだが、同社もそろそろ独自色を打ち出していかないと、同業2社との格差がさらに拡大していくことになるであろう。格差と言えば語弊があるかもしれないが、具体的にはブランド力や企業イメージ、業界における存在感、もちろん業績も含まれている。
かつては、「吉野家」の古びたオレンジ色の看板や、「すき家」の派手な赤い看板に比べて、「松屋」は黄色がメーンの明るい看板でイメージも良く、「松屋」の店舗が街中に新規オープンすると、お客さまは並ぶことを覚悟でお店に足を運んだものだが、ここ最近は出店場所もかつてほどの一等立地ではなく、やや微妙な場所に遠慮がちに出しているようにも感じられる。
お客さまが感じる「勢い」は、そのままブランド力や企業イメージ、業績にも反映されるものである。
「すき家」には勢いがあり、「吉野家」は復活しつつあるが、「松屋」はすっかり存在感が薄くなった。
これが、牛丼3社に対するお客さまのイメージではなかろうか。筆者の誤解や思い違いであればよいのだが。
◆フードコンサルティング=外食、ホテル・旅館、小売業向けにメニュー改善や人材育成、販売促進など現場のお手伝いを手掛けるほか、業界動向調査や経営相談などシンクタンクとしても活動。