外食の潮流を読む(60)徹底的に損益分岐点を下げて顧客満足と従業員満足を追求

2020.06.01 496号 11面

 「串屋横丁」という客単価2200~2300円の「もつ焼き専門店」を1都3県に50店舗展開しているドリーマーズ(本部/千葉県茂原市、代表/中村正利)という会社がある。看板商品は「スーパーホルモンロール」(130円)で、白モツをピンポン玉くらいの大きさにまとめ、4個を串に刺している。1本100gの量目がありものすごくお値打ちだ。

 同社の最大の特徴は、損益分岐点を極力抑えた経営をしているということだ。これによって会社の予算を「前年実績80%」でつくっているという。

 代表の中村正利氏は1968年9月生まれ。ドリーマーズを設立するまでは多岐にわたった経験を持ち、直前まではIT企業を営んでいたが4000万円の借金を背負い、01年に事実上の倒産状態となった。「串屋横丁」の展開は起死回生として挑んだ事業であった。

 11年の東日本大震災の時に大きな危機を迎えた。そこで、利益を確保する方法を模索した。

 まず主要食材のホルモンはと畜場の組合員となり、養豚業者から直接仕入れることで中間マージンを劇的に削減。次に、本部のある千葉県茂原市に工場をつくり「串屋横丁」50店舗全店の仕込みを行い、店舗では仕込みをしないようにした。工場の人員は製造部20人、配送部6人、受注部1人の計27人体制。店舗で仕込みを行うと1店舗当たり3人が必要となるが、「串屋横丁」全体で毎日130人の人員削減を実現し、年間の人件費は2億5000万円以上を削減していることになる。

 「もつ焼き専門店」としての業態を専門特化することで、厨房面積を小さくし、坪当たり席数を大幅に増やした。門前仲町店では38坪で約100席となっている。

 リピーター対策として「ドリンクパスポート」というカードをつくった。これは5回店舗を利用すれば毎日1杯無料でお酒が飲めるというもの。これによって広告宣伝費を全廃した。また、宴会需要や団体需要には重きを置いていない。大切にしているマーケットは、その街に住んでいたり、その街で仕事をしている人々だ。

 損益分岐点を大幅に下げてきたことを原資として、大胆な給与制度をつくり上げた。まず、店長の給与制度は固定給が月24万円でこれに歩合給が加わる。歩合の条件は店長が受け持つ店の席数などの規模によって変わる。一番大きな店の歩合給は80万円、一番小さい店では45万円程度となる。一番大きな店の店長は固定給+歩合給に残業代などが付いて月の給料は110万円程度、一方の店長は75万円程度になる。

 店長の下には店長を目指す人がたくさんいる。彼らの固定給は店長よりも高く設定されて年間340万~350万円。これに加えて利益目標をクリアすると毎月10万円が給付されて、さらに残業代が加わって年収500万円程度になる。

 同社の経営方針は「全ての経費はお客さまのために」。お客さまの「良かったよ」という評価が「売上げ」に結び付くと考えている。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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