外食の潮流を読む(81)北関東の飲食業「坂東太郎」が、推進する持続可能な地元づくり

2022.03.07 517号 11面

 北関東を中心に飲食店などを展開する坂東太郎(本社/茨城県古河市、代表取締役会長/青谷洋治)という会社がある。1975年創業、店舗数約80、年商約100億円となっている。創業者である青谷会長は51年6月生まれ、農家4人兄弟の長男として育った。

 同社では2018年に栃木県小山市内に本拠を置く和菓子製造販売業の蛸屋菓子店をグループに加えた。蛸屋菓子店は江戸時代に創業。北関東に100を超える店舗を構えて90年には22億円を売り上げた。しかしながら、17年に会社は破産、同年の8月に会社更生法が適用された。負債総額は関連会社を含めて34億円。それを坂東太郎は5億5000万円で引き継いだ。

 坂東太郎グループの一員となった蛸屋菓子店に対し、早速行ったことは不採算店の整理。そして従業員を解雇しない約束のもとで従業員の意識改革に尽くした。従業員が坂東太郎と同じ方向を向いてくれるようにと表彰制度をつくり、褒める環境をつくった。次に、工場の改造。動線を整えて働きやすい環境をつくった。工場の壁は取り壊してお客が買い物に来ることができるように直売所を設けた。

 青谷会長の狙いはこうだ。「飲食店の売上げは席数に比例するが、お菓子はヒットするとどんどん売れる。するとお客さまは喜ばれ、働いている人も生き生きとしてくる。その可能性に期待した」。

 「現状の工場には年商100億円の製造と販売のキャパシティがあり、年商100億円の坂東太郎と匹敵する。そこで当社グループの飲食業とお菓子の共創を図っていく」。

 そして、21年10月に菓子の製造工程を見学できたり、販売所やイベント広場が充実した「おかしパーク」をオープンした。初日から1週間で約6400人のお客が訪れ、840万円を売り上げた。

 19年7月、本社の敷地内にイチゴのビニールハウスを3棟建て、イチゴの生産を開始した。このアイデアは蛸屋菓子店をグループ化するときに描いたことで、イチゴ大福のイチゴを自社製のものにしようと考え、飲食事業のスイーツを充実させていくことも想定した。これからは和菓子職人、パティシエを自社で育成していくという。また、近くに特別支援学校があり、収穫の時期に手伝いをお願いしている。将来的には障害者雇用を行う計画だ。

 筑波山の麓に1万5000坪の土地を確保して05年から「母の里山構想」を進めている。これは理想郷としての「農村」をつくるということ。古民家や田園、果樹園、蔵や工房、神社や寺があり、自然の息吹の中で人々が暮らし行き交っている。さまざまな季節の農業が営まれ、蔵では味噌や醤油、工房では伝統工芸品もつくられる。すでに「神群塾」という社会人に向けた学びの場が営まれていて、今年で10周年となる。

 青谷会長が率いる坂東太郎は、地元に貢献するというマインドが一貫していて、それが地元に持続可能な環境をもたらしている。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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