外食の潮流を読む(104)値上げトレンドにあって高くても儲かるファストカジュアルの秘訣

2024.02.05 540号 11面

 東京・渋谷パルコ地下1階のレストランフロアにとてつもない繁盛店がある。店名は「ハンバーグ極味や」。筆者は2023年9月に初めて同店を訪れたが、その繁盛ぶりに驚いた。渋谷パルコ開店の11時から、レスランフロア開店の11時30分の間に行って、行列に並べばすぐに入店できると考え、余裕を持ったつもりで11時10分にこの店を訪ねた。すると、すでに40人の行列ができていた。「ランチタイムを外せば大丈夫だろう」と、再び14時に訪ねたら、その行列の長さは変わりがなかった。そこで行列に並ぶことに。果たして、入店できたのは15時40分。1時間40分並んだことになる。

 商品はハンバーグと牛肉(伊万里牛、神戸牛)のステーキがメイン。ハンバーグ単品ではSサイズ(120g)1298円(税込み)から。ハンバーグとステーキの組み合わせや、ステーキ単品のメニューもある。本部に確認すると客単価は2000円。17坪24席で、坪月商は約110万円とのこと。

 店内にはコの字型のカウンター席が2ヵ所配置され、それぞれ12席。メニューの注文は行列に並んでいる時に係のスタッフから質問されてお願いをする。食事はコース仕立てで全体の食事時間は30分程度。そこで3~4人程度が順繰りと入れ替わる。着席すると、コック帽をかぶった調理人が生のハンバーグを成形する。それをカウンターの内側の鉄板に置いて、表面に焼き目を付けてレアの状態でお客に提供する。お客はそれを自分で好みの大きさに箸でちぎって、さらに鉄板で焼いて食べる。追加注文となるが、セットで食事をすると、ご飯、スープ、サラダ、小さなソフトクリームが付いている。

 この店を運営するのは福岡市内に本拠を置く極味やグループ(代表/松尾和幸)。焼肉店で創業、市内で繁盛店を展開している過程で10年3月に開業を控えていた福岡パルコの担当者から相談を受けた。「お肉の業態で何かできませんか」ということだった。物件は地下1階で13.8坪。狭小物件であることから、焼肉ではなく、万人から好まれて、食事を終えるとすぐに回転するハンバーグを想定した。同社の焼肉店では裏メニューとしてハンバーグがあり、また端肉で作ったハンバーグをまかないで食べていた。そのためノウハウは十分にある。福岡パルコの店はたちまちにして坪120万円を売る店となった。

 筆者がこの店で気づいたのは以下だ。メニューが得意のジャンルに絞られている。客単価2000円になるが、ファストフードに似た提供方法で、お客との接点が少ない。しかしながら、調理人のパフォーマンスが楽しい。そして、最近の繁盛店は「カルビ丼とスンドゥブ」「あんかけ焼そば」など、焼肉店や中国料理店のそれぞれの人気メニューを切り取った専門店を展開している。これを「ファストカジュアル」と称する。値上げのトレンドにあるが、多少高くてもお客が満足し、収益を上げられる飲食店のポイントはここにあるようだ。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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