外食の潮流を読む(122)10年以上前に一斉風靡した斬新なレストラン「俺の~」が再び活発

2025.08.04 558号 11面

 2011年9月、新橋に斬新な店がオープンした。店名は「俺のイタリアン」。その後、日増しに店頭に長い行列が出来上がっていき、「1時間待ち」が当たり前になった。

 何が斬新なのか。それは、高級なレストランで活躍していた一流の料理人が料理を作り、高級店の価格の2分の1で提供する点だ。フードの原価率は60%を超えるが、これを立ち飲みのスタイルにして、お客を回転させることによって、これまでの常識にない数字をつくり上げた。この「俺のイタリアン」は、16坪でピーク時に月1910万円を売り上げた。

 同店は、中古書籍の販売店である「ブックオフ」創業者で、起業家の坂本孝氏のアイデアによって生まれたもの。その後「俺のフレンチ」「俺の割烹」「俺のやきとり」という具合に、料理ジャンルごとのブランドを増やしていった。しかしながら、コロナがやって来て、一時期の話題性は静かになった。「あの『俺の~』は、その後どうしているのだろうか」。その後を案じている人も多いのではないだろうか。

 その「俺の~」が今、活発に動き出している。投資ファンドのネクスト・キャピタル・パートナーズ株式会社(以下、ネクスト)が、24年7月に「俺の~」を展開する俺の株式会社の全株式を取得してからだ。

 ネクストでは、23年に外食企業のオリーブ株式会社を取得していて、24年11月に俺の株式会社と合併した。そこで、ネクストでは旧オリーブの物件を「俺の~」の店舗に転換するなど、活発な動きに拍車をかけた。新規出店も行なっている。25年5月末の段階で、総店舗数は64店。

 「俺の~」の出店を活発に進めている同社だが、代表取締役社長の立石寿雄氏は「俺の~」の魅力と展望について、次のように語っている。

 「創業者は偉大なアイデアマンです。飲食業の数値は、原価率30%、人件費30%、家賃10%という具合に固定的で当たり前になっていたが、ここに新しいビジネスモデルをつくり上げた」

 「ただし、ここには継続して儲けるという視点を欠いていたようです。このビジネスモデルが、だんだんと『儲かる』という状態に至らなくなったのは、お客様にとって、潜在的に食事はゆったりと食べたいという思いがあったからではないでしょうか」

 「『俺の~』の場合は、大多数のお客様が感じられる『おいしさ』の水準を十分に超えています。客単価は『俺のフレンチ・イタリアン』で4000円強、『俺の焼肉』では6000円強、『俺のやきとり』は3000円あたり。この客単価の範囲で『また、食べに行きたい』と思っていただいています」

 「私は『三方良し』ということを、企業文化として大切にしていきたい。お客様も、業者様も、従業員も、喜んでいく関係性を大切にしていくということです」

 創業者の坂本氏が切り拓いた「俺の~」ブランドの知名度は圧倒的なものであり、その安定したクオリティは、多くの人々から改めて支持されるものと筆者は考える。(フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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