海外通信 外食ビジネスの新発想(96)パリ生まれのエスニック・ソウルフード

2026.01.05 563号 19面
混ぜれば混ぜるほどおいしく食べられるボブン

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前菜としても人気のインペリアルロール6本(10.50ユーロ)

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野菜、豆腐、ピーナッツのトッピング「ボブン・ベジタリアン」(12ユーロ)

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よりシックな雰囲気のVellefaux店。オープンキッチンが楽しい

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明るくおしゃれな10区サンマルタン地区のAilbert店

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牛肉とエビ入りボブン「ボブン・ミックス」(14ユーロ)

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巻き上がり揚げられるのを待つインペリアルロール

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 ●知られざるパリジャンの日常食「ボブン」

 フランス・パリでは今や定番となったカンボジア、ベトナム系の麺料理「ボブン(Bo Bun)」。米麺の上に香草や野菜、炒めた牛肉、そして揚げ春巻きをのせ、甘酸っぱいヌクチャムソースをかけて食べる一品だ。温かい肉と冷たい麺や野菜を混ぜ合わせる独特のスタイルは、軽やかで満足感がありパリジャンの日常食として定着している。フォーのようなスープ麺とも、丼とも異なるサラダ感覚でテイクアウトでも味が損なわれにくく、忙しい都市生活に寄り添う手軽さも人気の理由の一つだ。

 ベトナム南部の麺料理に起源を持つボブンだが、現在フランスで広く知られるスタイルはパリ発祥とされ本場ベトナムにはない。移民として渡仏したベトナム系、カンボジア系の人々がフランスの気候や食習慣に合わせて改良したもので、温かいスープ麺だった料理を冷たいボウル形式に仕立てた。軽くて食べやすく、昼食に適した形へと進化したのが特徴だ。

 「ボブンがおいしい」、と定評のある店がある。パリ10区の人気店「Le Petit Cambodge(ル・プチ・カンボージュ)」である。清潔感がありカジュアルで明るい雰囲気の店内はいつも賑わい、地元の若者や観光客がひっきりなしに訪れる。

 東南アジアの家庭料理をベースにしながら、フランスの食材と感性を生かしたバランスの取れた味わいが特徴だ。看板メニューの「ボブン・ブフ(牛肉のボブン/12.5ユーロ)」を語る上で欠かせないのが、同店オリジナルの「インペリアルロール」である。一般的なベトナムの揚げ春巻き「ネム」とは異なり、より薄いライスペーパーを使い、軽い食感と香ばしい風味を両立させている。中の具材は豚ひき肉、春雨、ニンジン、キクラゲを基本に、フランス産のハーブや香味野菜を加えることで、揚げ油の香ばしさの中に清涼感が残る独自の仕上がりとなっている。単品でも注文が可能で、軽い前菜として楽しむ客も多い。

 このインペリアルロールをボブンの上で崩し、牛肉や野菜、米麺と一緒に混ぜて口に運ぶ。カリッとした食感が全体のアクセントになり、ヌクチャムソースの甘酸っぱさと香草の香りが一体となって広がる。油っこさが少なく、軽やかなのに食べ応えがあるため、健康志向のパリジャンにも支持されている。

 Le Petit Cambodgeのボブンは、単なるベトナム料理の再現ではなく、フランスの食文化と東南アジアの味覚が出合って生まれた新しいスタイルといえる。香草の爽やかさ、米麺の滑らかさ、そしてインペリアルロールがもたらす香ばしい食感が絶妙に重なり合い、一皿の中で多層的な味わいを構成している。異国の料理でありながら、いまやパリの街に深く根付き、人々の日常に溶け込んだ存在となっている。

 (井澤歩)

 ●店舗情報

 「Le Petit Cambodge」

 所在地=20 Rue Ailbert,75010,Paris他パリ市内に4店舗

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