電化厨房特集:服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長 服部幸應氏に聞く
近年、「食育」を通して日本の「食」環境の危機を訴え、改善のための活動も幅広く行っている服部幸應氏。自ら理事長・校長を務める服部栄養専門学校で数多くの優秀な調理人を育成し、さらに国内外を問わず多くの有名シェフとも交流の深い服部氏の目に、昨今の“電化厨房”を取り巻く状況の変化はどのように映っているのだろうか。率直な感想をうかがってみた。
●期待高まる電化厨房 創意工夫を広げる-新機能に期待
服部幸應氏が理事長・校長を務める服部栄養専門学校では、早くから電化厨房機器を取り入れており、現在では「電気/ガス」それぞれの利点を使い分けた授業を行っている。
「在校生だけでなく卒業生たちにも、最新の設備や調理法を還元することが、私たちの一つの役目であり、さまざまな厨房機器をデモンストレーションし、使い勝手を教えることを続けています。その一環として1970年代からIH調理器を導入しています。当時の機器に比べて最近の機器は、性能もデザインも格段に進歩していますね」と服部氏。
電化厨房の第一印象について、「熱効率が抜群に良く、暑さがなく衛生的なキッチン。クールでクリーンという理想的な厨房環境を実現しやすい」と語る。そして、「プロの現場ではガスの良さもあり、両立することが必要だ」と強調する。
実際の使い勝手については、「IH調理器を使う際は専用の鍋類が必要ですが、それさえ揃えてしまえば、ほとんどの料理に対応できるでしょう」と太鼓判を押す。とりわけ、「急いで湯を沸かしたり、長時間かける煮込み料理の場合、電磁の安全性とハイパワーが発揮されますね」と、優位性を指摘する。
だがその一方で、「だしを取ることに関しては、難しさを感じている」とも言う。「料理は、塩梅(あんばい)とだしと火加減」と考える服部氏にとって、火を見て火加減を調節できないことが、最大のネックのようだ。
「私自身、まだまだガスを引きずっている年代なんですね。ですから、いまだに“だしのアタリ”が分からず、“出し切れない”といった状態です。もっと実験を重ね、電磁でも効率よくだしを引き出せるようなノウハウを習得しなくては」と課題づける。
●デザイン改革が課題 迫られる環境対応 電化活用に脚光
IH調理器のデメリットといわれている部分には、このような“慣れ”の問題も多い。その課題について、「例えば、火加減の強弱をメモリー数値だけで表現するのではなく、コンロの表面上にLEDのような発光表示を設けると良い。火加減の強弱に比例して発光表示が強弱すれば、料理をしながらひと目でコントロールできます。火加減の強弱を示すビジュアル化が進めば、もっと便利になるはず」と提案する。
「どうすれば一番おいしくなるか」を常に追求している服部氏は、「改良を加えれば歴然と味が変わるのに」と、厨房機器の現状を歯がゆく思うことも多い。しかし、「制御能力に優れる電化機器ならば、使い勝手が良く、おいしく作るための技術を、ちょっとした工夫で簡単に付加できるのでは」と、厨房メーカーの技術開発に期待を寄せる。
「施設によっては熱源を電気に限られる厨房もあります。しかし、私にとっては電気もガスも両方必要であり、どちらか一方が優れているとは思いません」と服部氏。「電気には電気、ガスにはガスの、それぞれ魅力と利点があり、一流のシェフは、それをよく理解しています。要は状況に応じた使い分け、両方を使いこなせることが大切です」と言う。
とはいえ、今後の厨房を取り巻く環境について、「これからの地球環境の問題から考えると、CO2の排出削減に効果的な電化厨房の需要は増えていくはず」と、指摘する。
◆服部幸應(はっとり・ゆきお)=1945年生まれ、東京都出身。立教大学社会学部卒。学校法人服部学園服部栄養専門学校理事長・校長。医学博士。食育を通じた生活習慣病や地球環境保護の講演活動に精力的に取り組んでいる。(服部栄養専門学校=東京都渋谷区千駄ヶ谷5-25-4)