外食史に残したいロングセラー探訪(24)紅虎餃子房「鉄鍋棒餃子」
「にらまんじゅう」や「黒ごま担々麺」、スティック状の「春巻」など、ユニークなメニュー開発を積極的に行い、全国へ発信する際コーポレーション(株)。「鉄鍋棒餃子」もまた、同社が生み出した商品の1つ。そのルーツは北京の食堂にあったギョウザに似た料理にあるといい、独自のアレンジを加え、一躍ヒット商品となった。
「鉄鍋棒餃子」を初めて提供したのは、際コーポレーション(株)の創業店舗である「韮菜万頭」である。1991年6月のオープンから約半年後に、「鉄鍋棒餃子」がメニューに加わったというが、同店の看板商品はあくまでも「にらまんじゅう」であった。そこで、1996年に同商品を主役に据えた「紅虎餃子房」を出店したところ、たちまち人気を集め、大ヒット商品へとして生まれ変わった。
「鉄鍋棒餃子のヒントとなったのは、北京の食堂で出合った『〓〓火燒』(ダーレンフォウショウ)と呼ばれる、ギョウザに似た料理」と、同社代表取締役社長の中島武氏。それは屋台や食堂で食べられる大衆的な料理で、豚肉とネギのあんを日本のギョウザよりも軟らかい皮で包み、焼いたもの。これを現地の人たちは3~4本を重ねて食べるそうだ。
この料理を中島氏は大変気に入るが、食堂の「普通のおばちゃん」たちには調理師ライセンスなどなく、日本へ働きに来てもらうことは不可能。「ならば自分で作ってみれば?」と、彼女たちは中島氏を厨房に入れ、レシピを教えてくれた。
そして帰国後、商品化のための取り組みが始まるのだが、問題となったのが皮。日本では四角い餃子の皮は作られていなかったため、自分たちで大きめの丸い皮を打ってから、カットしていたという。だが、出数が増えてくると、手作りの皮では間に合わなくなり、その様子を見ていたスタッフの提案で、業者に特注するようになった。今では年間約480万枚を生産している。北京のものとは違い、カリッとした食感に焼き上げられる皮だ。
そしてもう1つの特徴である鉄鍋で提供するスタイルは、中島氏の出身地である九州では有名な、鉄鍋ギョウザから発想を得た。
ヒット商品を作り出すにはネーミングも重要と考える中島氏は、鉄鍋に入れた長いギョウザなので、分かりやすくシンプルに「鉄鍋棒餃子」と名付けた。そして、狙い通りに大ヒットロングセラー商品となる。
初めは、白菜、ニラ、豚肉、背脂、里芋、山クラゲ、ニラ、ネギ、ショウガなど10種類以上の食材を具に使用していたが、軽やかな味が求められる現在ではシンプルに豚肉、春雨、キクラゲなど数種類程度という。
「時代に合わせて微調整を繰り返しながらも、これからも紅虎餃子房の看板商品として、大切に育てていきたい」(中島氏)
●店舗データ
「紅虎餃子房」/経営=際コーポレーション(株)/本社所在地=東京都目黒区大橋2-22-8 千歳ビル3階/第1号店開業=1996年12月/店舗数75店(2008年9月現在)/客単価=昼900円、夜2500円
●愛用食材:やみつきになる黒酢「珍寶牌 鎮江香酢」
鉄鍋棒餃子のあんには、しっかりと味が付いているので、そのまま何も付けずに食べてもおいしいが、「たれを付ける場合は、黒酢7対醤油3の割合がおすすめ」と中島氏。
同店で使用している黒酢は、本場中国産の「珍寶牌 鎮江香酢」。良質のもち米を主原料に、長時間発酵させて製造されており、色が濃く、香ばしく、甘みがあり、酸っぱく、渋みがないといった特徴がある。もちろんギョウザだけでなく、ほかの料理との相性もよい。
黒酢は好みがハッキリと分かれるが、同店で初めてその存在を知り、独特なクセが病み付きとなった人も少なくないという。「家でも使いたい」と希望するお客のために、店頭で販売している店舗もある。