外食史に残したいロングセラー探訪(27)元祖とろカツカレーの店「元祖とろカツカレー」
来店客の約7割以上がオーダーするという「とろカツカレー」。カレーの上に、その名前の通りスプーンでも切れるほど、とろとろに軟らかいカツがのるこの商品は、今までにない食感として若い男性客を中心に人気が高い。また、チャレンジメニューの店としても有名であり、先般の大食いブームの火付け役の一端も担ったメニューだ。
「元祖とろカツカレーの店」を経営する(株)グラット代表取締役・細谷隆氏は、今から10年以上前に、都内で定食屋を営んでいた。その店は、周囲のサラリーマンに人気があったものの、隣接する立ち食いそば店に比べると回転も悪く、店が混んでいるとすぐ別の店に行ってしまうお客が多いことを細谷氏は残念に思っていたという。
当時はバブルが弾け、景気が悪くなり始めていたころ。「このままお客さまを逃していてはもったいない。効率よく提供でき、『これが食べたい』とお客さまを呼べるメニューを作らなくては」と思うようになった。細谷氏が定食屋を始める前に勤務していた大手カレーチェーン店で、常に人気上位であったことから、「カツカレー」が候補に挙がるが、単なるカツカレーでは、インパクトに欠ける。
そこで細谷氏が採用したのが、東南アジアへ旅行した際に食べた、豚肉を煮てから揚げる料理。暑い国で食材をもたせるために生まれた料理法だが、肉がとても軟らかくなるのだという。
この料理法をヒントに、試行錯誤を重ねた結果、豚ばら肉を約5時間ボイルして余分な脂を抜き、良質なコラーゲンが残っている状態にしてから、パン粉をつけて揚げる「とろカツ」が生まれた。
とろカツに合わせるため、カレーはあえて個性を出さず、いたって家庭的な味わいで、「ランチを終えて、オフィスに戻った後に胃もたれしないような、あっさりめのカレー」(細谷氏)。豚肉、玉ネギ、ニンジン、ココナツミルク、ヨーグルト、ニンニク、ショウガなど使われている食材もシンプルで、それらを約4時間煮込んでいる。
こうして誕生した「とろカツカレー」を早速、定食屋で出したところ、徐々に人気商品となり、リピーターも増えていった。
その後、とろカツカレーの専門店「元祖とろカツカレーの店」第1号店として、2003年5月に「ドン・キホーテ パウかわさき店」をオープン。これまでとは一変してファミリー客がメーンとなったので、誰でも食べやすいマイルドなカレーに変え、さらに幅広い客層から人気を得るようになった。
また、商業施設内という立地からイベントを開催するようになり、「とろカツ3本のせカレー」を制限時間内に食べるチャレンジメニューを始めたことで、いつしかフードファイターの登竜門としても知られるようになった。
「今後は、とろカツから派生した丼や麺メニューを提供できるようにしたいと計画中」と細谷氏。とろカツは、カレーだけにとどまらず、さらに進化を続けていくようだ。
●店舗データ
「元祖とろカツカレーの店 渋谷3丁目店」/経営=(株)グラット/店舗所在地=東京都渋谷区渋谷3-18-8 よしむらビル1階/開業=2008年12月/営業時間=午前11時~午後10時/坪数・席数=12坪半・10席/客単価=850円/1日来店客数=200~300組/平均月商=600万円
◇チャレンジメニュー
チャレンジメニューが始まったのは2003年。「単なる常連ではなく、『信者客』と呼べるような、とろカツカレーのコアなファンを育てたかった」と細谷氏。これまで約3000人が挑戦し、1000人が成功している。
その内容は、総重量約2kg(ご飯1kg、ルー610g、とろカツ390g)の「とろかつ3本のせカレー」を制限時間15分で食べれば無料になる。さらに、5回連続で成功したら「とろカツKING」に任命し、永久無料券が与えられる。現在では、挑戦イベント開催日だけ、チャレンジすることができる。
ほかにもイベント時にキングだけ挑戦できる「とろカツ6本のせカレー」(総量4kg)や、時間内クリアで永久食べ放題券が進呈される「とろカツ9本のせカレー」(総量6kg)などもある。