外食史に残したいロングセラー探訪(35)紅鹿舎「元祖ピザトースト」
朝食やおやつとして、家庭でも手軽に作れるメニューとして人気の「ピザトースト」。実はこのピザトーストが日本生まれの料理であったことをご存じだろうか。その発祥の店が、有楽町駅の近くにある喫茶店「紅鹿舎」であり、元祖ならではのシンプルなおいしさを楽しむことができる。
紅鹿舎がオープンして7年ほどたった1964年ごろ、代表取締役の村上節子氏は、サンドイッチやバタートーストしかなかったパンメニューを増やしたいと、夫の末吉氏に相談された。
「店で使っていた食パンが気に入っていたので、これを利用したメニューが何かできないかと2人で考えました。私はピザパイが大好きでしたので、『パイ生地の代わりにパンを使ってできないかしら』と提案したところ、それがきっかけで、ピザトーストが誕生しました」と節子氏。
あらためてピザパイを何度も食べて研究し、チーズを焼いたときのおいしさなどを再現したいと試行錯誤を重ねたが、特に難しかったのが焼き方であった。
具に火が通り、チーズを香ばしく焼き上げると、パンが焼け過ぎ、硬くなってしまったり、オーブンの温度が高すぎると、おいしそうな焼き色がついていても中が冷たかったりと、上下の焼き加減の調節に悩まされた。そこで、ピザトースト専用にグリルを導入して上下両面からバランスよく焼けるようになったという。
作り方は、バター、ピザソースを塗り、生玉ネギ、ピーマン、そしてマッシュルームの水煮のスライスとサラミの上から、たっぷりのチーズをのせて10~13分程度焼き上げる。そして仕上げに、粉末のパプリカとパセリを散らす。チーズをたっぷりとのせることで、中の具材が蒸し焼きにされる効果もあるようだ。
当初、サラミは輪切りを使っていたが、千切りに変えることで、どこを食べてもサラミの味をまんべんなく楽しめるようになった。
パンは山型の食パン3斤を11枚、約3センチの厚さに切ったもの。店では昔からボリュームのある料理を出していたので、ピザトーストもお腹を満たすことができるようにと、厚めにしている。さらに、この厚さだからこそ、焼き上げたときに、外はカリカリ、中はふっくらもっちりとした食感を楽しめるのだという。
ピザトーストが誕生したころ、まだチーズは一般的な食材ではなく、家庭ではせいぜいプロセスチーズが使われるぐらいであった。そのため、「チーズは苦手だったけれど、これなら香ばしくてクセもやわらぐから食べられる」というお客も多かったらしい。
「ピザトーストを始めてから45年以上になりますが、親子三代で利用されたり、思い出の味だからと訪ねていただいたりと、多くのお客さまに長く愛されていることを実感しています」と節子氏。これからも、さらに多くの人たちの思い出の味となることだろう。
●こだわり食材:食パンとチーズ
ピザトーストだけではなく、サンドイッチにも使われている山型食パンは、田端にあるグランドベーカリーというパン屋に依頼し、焼き上げてもらっている特注品である。
ピザトーストを作る際、上に具をのせても沈まないように、軟らかすぎずに、しっかりとコシがある。また、どんな具材とも合うように、塩味などは控えめである。
チーズは、香りとうまみがよいことからオランダ産のゴーダチーズを使用している。チーズの状態は常に変化するため、焼き上げる時間などの調節が欠かせない。このチーズを使い、ツナや明太子、コンビーフなどを組み合わせたホットサンドも人気だ。
●店舗データ
「紅鹿舎」/経営=(株)べにしか/店舗所在地=東京都千代田区有楽町1-6-8/開業=1957年3月/客単価=1100円/営業時間午前9時半~午後11時45分(土日は午前9時~)