電化厨房特集:省エネ法・温対法改正について 食品産業・外食産業への影響と対策方法

2010.05.03 372号 06面

 2010年(平成22年)の本年には特別な意味がある。京都議定書の第一約束期間である2008~2012年の5年間の中央年であること、その国際的約束を果たすべく規制強化された「省エネ法」「温対法」が4月1日から施行されたからである。食品産業・外食産業の読者はその対応の準備はできているだろうか。法改正については関係行政からそれぞれ広報がなされているが、本稿ではおさらいを含めて読者に及ぼす具体的内容、やるべきことについて注意を喚起し、遺漏なき対応をお願いすることとしたい。((財)省エネルギーセンター国民活動総括部部長 原正幸)

 ◆事業者としてのエネルギー使用量の届け出

 まず最初に生ずる義務は、事業者としてのエネルギー使用量が1500kl以上であった場合にその事業者に課せられるエネルギー使用量の届け出義務である。この届け出をすると、届け出た事業者は国から「特定事業者」または「特定連鎖化事業者」として指定を受け、指定通知書の日付をもって改正省エネ法に規定される種々の義務が課せられることになる。

 事業者としてのエネルギー使用量の届け出に関しての改正省エネ法の規定は、次のような書きぶりになっている。すなわち、説明の便宜のため一部の文言を置き換えると「事業者は、その設置しているすべての工場等の前年度におけるエネルギー使用量(原油換算kl)の合計量が1500kl以上であるときには、その設置しているすべての工場等の前年度におけるエネルギーの使用量その他エネルギーの使用の状況に関して、事業者の所在地を管轄する経済産業局に届け出なければならない」(改正法第7条第3項、連鎖化事業者については同第19条第2項)。

 「事業者としてのエネルギーの使用量」という意味を正しく理解するためには、この規定のなかの「事業者」「工場等」「年度」「エネルギー」「原油換算kl」についてそれぞれの意味、すなわち定義と範囲とをよく吟味しておかなければならない。またこれに尽きるということもできる。以下、順不同であるが注意点について解説する。

 なお、この届け出義務に違反した場合の罰則であるが、1500kl以上であったのに届け出をせず、または虚偽の届け出をした場合には50万円以下の罰金が課せられることになっている(第95条第二号)。

 ◆「エネルギー」の定義・範囲

 省エネ法が対象とするエネルギーの種類については、化石燃料資源由来のエネルギー(燃料、熱、電気)に限られる。

 しかしながら、食品や食材などの製品をトラックなどで運搬する場合のエネルギーは省エネ法の規制体系の中では輸送にかかる措置の中で勘定し、報告もするので、本稿で扱う工場などの使用量としては算定対象外となる。従来からもそうであったが、工場内で稼働するフォークリフトのエネルギーは、工場などで使用するエネルギーに含まれ、社用車など工場敷地外に出て一般公道を主として走行する車が使用するガソリンの場合は含まれないなど、エネルギーの使われ方によって工場などの使用するエネルギーとしては算定対象となったり、対象外とされたりするものがある。

 ◆「事業者」の定義・範囲

 事業者とは、事業主体のことで、法律上の権利義務の帰属主体となることができる「法人格単位」の範囲とされている。一般の会社であれば登記上の本社が直接統制する法人としての全組織が範囲となる。子会社については保有株式100%であっても親会社とは別法人であるため範囲外になり、同様に持株会社についても範囲外になる。

 フランチャイズチェーンの形態(改正省エネ法では連鎖化事業といい、その本部を連鎖化事業者という)についても全体として1500kl以上のエネルギーを使用する規模のものについては単一の事業主体である事業者と同様に省エネ法の義務がかかることとなった。

 しかしながら、一般にフランチャイズチェーンといってもその契約形態は多種多様であり、省エネ法という枠組みの中で一事業者と同様にとらえるべき連鎖化事業者については、一定の条件を満たす場合に限る必要があるとされている。すなわち、改正省エネ法の条文において連鎖化事業者の定義として、(1)定型的な約款による契約に基づき、特定の商標、商号その他の表示を使用させ、商品の販売又は役務の提供に関する方法を指定し、かつ、継続的に経営に関する指導を行う事業であって、(2)当該約款に、当該事業に加盟する者(以下「加盟者」という)が設置している工場等におけるエネルギーの使用の条件に関する事項であって経済産業省令で定めるものに係る定めがあるものを行う者としている(改正法第19条)。(図表2)

 この経済産業省令で定める定めとして以下の条件が規定されている。

 〈条件〉

 フランチャイズチェーン本部が行うフランチャイズチェーン事業に加盟する者が設置している当該事業に係る工場等(加盟店)に関し、その約款において以下の(A)及び(B)の事項を満たしていること。

 (A)エネルギーの使用の状況に関する報告をさせることができること

 (B)以下のいずれかを指定していること

 (1)空気調和設備の構成機種、性能又は設定温度等

 (2)冷凍又は冷蔵機器の機種、性能又は設定温度等

 (3)照明に係る機種、性能又は照度等

 (4)加熱及び調理機器の機種、性能又は使用方法等

 ここで、「商品の販売又は役務の提供」と限定していることから、例えば大手スーパーなどに惣菜やパンなどを納入している食材製造チェーンは連鎖化事業の定義には当てはまらないことになる。一方、フランチャイズチェーンの業態を取っている外食産業の場合には、約款の内容に応じて当てはまる場合と当てはまらない場合とが生じることになるので、ご自身の約款の内容をチェックし、いずれであるか判断する必要がある。

 ◆「工場等」の定義・範囲

 省エネ法は制定当時(1979年)から指定工場制度をとっており、工場単位で行う現場のエネルギー管理に主眼があった。工場単位というのは、工場の敷地境界線で囲まれた一区画を工場としてイメージすると分かりやすい。工場立地法や消防法の届け出による工場の敷地境界である。公道や河川によって隔てられている場合、隣接した敷地であり、かつ、エネルギー管理が一体的になされていれば、従来から単一の工場として考えられてきた。事業場についてもだいたい同様に考えられてきた。

 改正省エネ法では、この工場・事業場単位での規制を事業者単位の規制という考え方に変更することになるわけである。事業者単位の規制となると、従来の敷地境界とは異なる、あるいは孤立した敷地境界を複数含む、いわば組織境界という抽象的な境界が概念として新しく導入されるということもできる。したがって、敷地境界と組織境界とが入り組む場合も生じてくる。

 この問題に関しては、次に説明する(1)産業部門における地縁的一体性を持った複数事業者の取り扱いと、(2)民生・業務部門におけるオーナーとテナントの取り扱いとをこの問題の典型例として整理することもできる。

 (1)産業部門における地縁的一体性を持った複数事業者の取り扱い

 例えば、工場敷地内に多くの子会社の事業所がある場合、親会社が工場敷地内全体のエネルギー管理を一体的に行っているケースが多い。事業者単位の規制を厳密に適用してしまうと実際のエネルギー管理からかい離し、かえって省エネが進まないという弊害の方が大きくなってしまう。このような場合には以下のような条件を満たし、所定の手続きを行った場合に一工場として定期報告書の提出などの運用上の便宜が例外的に認められる。

 ・地縁的一体性が認められること。すなわち「同一敷地内または隣接した敷地に設置され、エネルギー管理上の結びつきがあるもの」。

 ・親会社の工場の総エネルギー使用量が1500kl以上であること。

 ・「親会社の工場a2が子会社の事業所b1の省エネ法上の義務を負うこと」についてAB両者が合意をしていること。この場合、両者が書面をもって相互の合意を確認し、その書面を両者が保管するという手続きが必要となる。(図表3)

 (2)民生・業務部門におけるオーナーとテナントの取り扱い

 事業者単位の規制となると小さな営業所のエネルギー使用量もすべて集計対象となるが、テナントとして入居しているケースも多い。従来はテナントビルにおけるテナント専用部のうちテナントにエネルギー管理権原が存在しない部分のエネルギーについてはオーナー側にだけ省エネ法の義務を課していた。改正後はオーナーとテナントとが協力して省エネルギーを行うことを促進するため、テナント側にも報告義務が課されることになる。共用部については引き続きオーナー側にだけ報告義務を課される。(図表4)

 なお、テナント専用部のエネルギー使用量については、計量されていない場合が多いことから、オーナーにおいて合理的な手法により推計を用いてテナント側に情報提供を行ってもよいこととなった。また、オーナーからテナントに情報提供がない場合、テナントだけで推計して報告してもよいこととされた。これらの推計手法についてはWebで公開されているツールが利用できる。

 ◆「年度」の定義

 エネルギー使用量を算定する期間としては、「年度」ということで4月1日から翌年3月31日までと改正法第7条で定義されているので、事業者が採用している会計年度の区切りが1月から12月であっても、定義された期間に合わせなければならない。また、事業者が使用したエネルギーの量として把握する場合、電気や都市ガスの検針票が手っ取り早いが、検針票は必ずしも月初の日とは限らない。電力会社やガス会社の営業日にしか発行されないので毎月の検針票には数日のずれがある。

 しかしこれについては、個々の検針票に記載されている日付にこだわらず、単純に12ヵ月分の合計でよいとされている。

 ◆「原油換算kl」への換算

 エネルギーの使用量の原油換算klへの換算方法については改正されていない。燃料の発熱量については総合エネルギー統計が5年ごとに改訂されるのに合わせて一部の燃料の発熱量が改定されているので注意が必要である。財団法人省エネルギーセンターのホームページに、平成21年度の集計用フォーム(http://www.eccj.or.jp/law06/xls/03_00.xls)が掲載されているので、確認していただきたい。

 事業者全体のエネルギー使用量の届け出の際、従来からの3000kl以上の第一種指定工場相当のエネルギーを使用した工場および1500kl以上の第二種指定工場相当のエネルギーを使用する工場などについては、それぞれの使用量を内訳として、その他の1500kl未満の工場などは全体の合計の中にまとめて報告することになる。提け出先は事業者の主たる事業所の所在地を管轄する経済産業局長。この使用状況届出書により、経済産業大臣が「特定事業者」「特定連鎖化事業者」「第一種エネルギー管理指定工場」「第二種エネルギー管理指定工場」の指定を行うことになる。

 ◆指定後にやらなければならないこと

 (1)エネルギー管理統括者、エネルギー管理企画推進者の選任義務

 ・「エネルギー管理統括者」=特定事業者(年間のエネルギー使用量が1500kl以上の事業者)に指定されると、自己が行う事業の実施を統括管理する者の中から選任し、そのむね国へ届け出なければならない。株式会社の場合取締役会などで発言権のある者、その他の組織では意思決定者に直接具申する権限のある者になる。具体的には「環境担当」や「CSR担当」「施設担当」の役員が一例として挙げられている。

 役割としては(1)経営的視点を踏まえた取り組みの推進(2)中長期計画のとりまとめ(3)現場管理にかかわる企画立案・実務の統制であって、具体的には(1)エネルギーを消費する設備やエネルギーの使用の合理化に関する設備の維持、新設、改造または撤去の決定(2)定期報告書や中長期計画書の作成事務(3)エネルギー管理者またはエネルギー管理員の指導(指定工場がある場合)などが挙げられている。

 ・「エネルギー企画推進者」=エネルギー管理講習修了者、またはエネルギー管理士の免状を有している者の中から選任し国へ届け出なければならない。役割としては、「エネルギー管理統括者」を補佐することで、実務面から支えることになる。

 (2)定期報告書、中長期計画書の提出

 これらについては、平成22年11月末日が提出期限となっており、指定を受けてから十分準備の時間があるので、解説は省略する。

 ◆改正温対法について

 温対法も省エネ法の改正と同様に、温室効果ガス排出量の報告の仕方が工場・事業場単位から事業者単位と変更され、またコンビニエンスストアなどのフランチャイズチェーンも一定の条件を満たせば排出量の報告を義務付けられるように変わる。一方、排出量の算定方法や結果の公表の仕組みの部分についての大きな変更点はない。しかしながら、電気事業者が外国と排出量取引を行った場合には、その分を差し引いた調整後排出係数が国から公表される。事業者は、実排出係数と調整後排出係数を使用して、2種類の排出量を報告することになる点が変わる。

 最も注意することは、本年7月末日までに、全社でエネルギーをどれだけ使ったか、総使用量の報告をしなければならないことである。報告年度はその前年、つまり、2009年4月~2010年3月の1年間であり、月ごとの電気検針票、ガス使用量、テナントとして入居している営業所などがあれば、これらすべてのエネルギー使用量を把握しておかないといけない。

 図表5に示す、データ取得・届出準備・報告準備期間にくれぐれもご注意いただきたい。

 ●事例

 (1)鍋料理など客席でカセットコンロを使用する場合の“ボンベ”→「石油液化ガス(LPG)」もしくは「ブタンガス」と表示されているボンベは対象となる。

 (2)焼き肉店や焼き鳥店などで使用する“炭火”→炭はバイオ燃料と同じ「再生可能エネルギー」であり省エネ法が対象とする「化石燃料」ではないため、対象とされない。

 (3)店舗で作った料理を配達する場合(宅配)の車やバイク→主として公道を走行するものであり、工場などにおいて使用されるものではないため、対象とされない。

 (4)セントラルキッチンから、店舗へ配達するトラック→(3)と同様、対象とされない。

 (5)セントラルキッチン(調理工場)内で使用するフォークリフト→工場などで使用されるものではないため、対象となる。

 ●事例

 (1)A社の関連する事業=レストラン経営(直営/FC)/ケータリング(仕出し)事業/ケータリング専用調理工場/ケーキ製造工場/洋菓子販売店舗→すべてA社が行う事業のため、すべてがA社の事業範囲。

 (2)B社の関連する事業=レストラン経営(直営/FC)/子会社a・食材加工業/子会社b・農場経営(レストランで使用する食材の供給)/子会社c・中国でのレストラン事業(中国で設立)/子会社d・介護事業(老人施設の運営)→子会社a、b、c、dは別法人のため対象外となり、レストラン経営だけがB社の事業範囲。

 (3)C社の関連する事業=レストラン経営(直営1店舗)/ビルオーナー(レストランの入っているビルを所有し、他フロアをテナントとして貸し出し)→すべてがC社の事業範囲。

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