メガ外食チェーンのトップが語る食戦略:大東隆行氏、粟田貴也氏

2013.01.07 406号 18面
大東隆行氏

大東隆行氏

粟田貴也氏

粟田貴也氏

 関西の外食企業の象徴であり、関西の元気印を代表する(株)王将フードサービスと(株)トリドール。創業45年を迎えてなお店舗拡大と進化の勢いが弱まらない中華食堂「餃子の王将」は650店舗、国内最速の1000店舗展開と同時に全世界への挑戦も始めた12年目の「丸亀製麺」は634店舗をそれぞれ展開(2012年9月末日現在)。業態は違えど、専門性を軸に人磨きに注力し、お客の目が届くオープンキッチン調理で、出来たてをすぐに庶民派価格で提供するなど、共通点も多々ある両社。意外にも初対面という、日本の外食産業をけん引する両トップに、外食市場の環境や生活者ニーズ、将来を見据えた企業戦略を語っていただいた。

 (12年9月発刊・創刊70周年関西支社記念誌号企画)

 ●今期ともに730億円超へ

 –外食産業で圧倒的な存在感のある大東社長と、国内に加え海外でも積極的な展開を進めてこのあとも海外へ向かわれる粟田社長、忙しいご両名にお越しいただき感謝いたします。

 粟田 はじめまして。よろしくお願いします。

 大東 こちらこそ。最近私は、あまり露出しないようにしていますが、粟田社長に会えるとやって来ました。今、一番注目の企業で、すごい勢いですね。売上げはどこまでいかれましたか?

 粟田 恐縮いたします。私も普段はお話する機会がほとんどありませんが、尊敬する大東社長にお会いできると楽しみにしてきました。12年3月期は売上げ610億円でそのうち約550億円が丸亀製麺です。今期は他業態を含め730億円を目指しています。

 大東 丸亀製麺さんの1号店から約10年でこの成長はすごいです。当社は12年12月で創業45年です。前期は売上げ710億円強で、すべて餃子の王将です。今期計画は740億円強です。

 –日本の外食産業は低迷と思われがちですが、両社はともに大きく成長されています。その要因は。

 大東 今元気な企業は特徴を持っています。丸亀製麺さんの「うどん」もですが、当社の看板はギョウザで、昔から徹底して技術を磨き、今でもどうしたらおいしくなるかに注力しています。今後もまだまだおいしくなると味の追求は怠りません。だから12年夏、ギョウザの材料を管理するセントラルキッチン(CK)に6~7億円投資しました。いろいろと手掛けている会社は、なぜ創業したかを忘れないでほしいです。あとは人です。研修は今後も深掘して、人を変えたいと考えています。

 粟田 大先人の大東社長の言葉は心に響きます。若輩ものの当社はようやく足場が組み立った状況で、石垣を積み上げている状態です。お客より、店舗の方が多い飽和状態の本当に厳しい時代で、気を抜くとすぐ足をすくわれる危機感が常にあります。来店動機はやはり主力商品をしっかり持つことで、核となる商品があって、そこに紐付いたサービス提供が、徹底的な差別化につながると考えています。

 私は焼き鳥店から身を起こし、約12年前にうどんを始めて、展開を加速してきましたが、今日もうどんは、“手作り、出来たて”を意識して作り続けています。一貫して店舗で手作りするので、たまには不都合もありますが、店内調理へのこだわりは保ち続けたいです。

 ●味・質追求に終わりなし

 –核となる看板商品をおいしくする要素はなんでしょう。

 大東 当社のギョウザはジューシーなおいしさと1人前150gのボリュウムが特徴です。

 粟田 当社のこだわりは材料です。極力もっちりと弾力性のあるうどんにするために、まぜものは一切なしで、北海道の国産小麦、塩、水だけでもっちり感の再現に努めています。

 大東 すべて国産の小麦ですか。

 粟田 はい、北海道産を買い続けています。若干黒味を帯びていますが、甘いです。日本の粉には味があり、食べ続けてもらえばおいしさはわかっていただけると思います。

 大東 材料のこだわりがおいしさへの自信になっているのですね。しかし、ものすごい量でしょう。

 粟田 製粉4社から仕入れていますが、1000店舗までは一応めどを付けているつもりです。いざという時のために、国産とオーストラリア産のブレンドも実験しましたが、やはり地粉でいきたいです。うどんは材料しかないからシンプルです。

 あと、水にもお金をかけています。水道水ですが、カートリッジで浄水して、軟水機にかけて、機械にコストをかけています。うどんは水で2倍に膨れます。逆から見ると、半分は水なので、水の味が重要です。経時劣化も激しいですからね。

 大東 作り置きは劣化しますね。

 粟田 湯がくのに15分掛かるので、作り置きしながら鮮度を保つことが難しいです。20分破棄のルールはありますが、出来たての方が限りなくおいしいです。あとは湯がいた後の水の管理です。

 大東 回転率もあるので兼ね合いの問題です。これからの課題ですね。ギョウザもいかに管理するかです。気は抜けませんし、焼き置きは絶対にだめです。ですので、「(1)焼きだめ、2度焼きはしません(2)白いギョウザ、こげたギョウザは提供しません(3)熱い鉄板で焼きます(4)必要十分な水を入れて焼きます(5)シャールは小出しに、ギョウザの口はしっかり閉じて巻きます」と、朝礼で唱和する「餃子五訓」を作りました。

 結局、ギョウザが命、ギョウザが魂とやってきましたが、全スタッフが管理、焼き上げ、水分量などを徹底できているわけではありません。完全なギョウザを、より確実に提供できるかは今でも課題です。2~3分で味が変わるので、スタッフの調理技術を上げるための月間メニューにいまだにギョウザが上がります。うどんもシンプルなだけに難しいでしょう。

 粟田 はい、難しいです。

 大東 当社もまだ味・質の追求を続けていて、終わりはありません。今期はCKで作るギョウザの皮を店舗に運ぶ際の包装を真空に変えてかなりよくなりました。うどんは季節ごとでの工夫もあるはずです。天ぷらはボリュームを考えているのですか。

 粟田 ボリュームも若干考えていますが、うどんとの相性やバリエーションです。

 大東 かき揚げは出来たてがおいしい。一番もうかるが、一番難しいですね。

 粟田 はい、少しでも克服したいと天ぷら粉はかなり勉強しました。製粉業者さんと一緒に油抜けがよくてカラッと揚がって、食べても油が残らない粉を開発から手掛けました。

 大東 そうでしょう。

 ●出店にはかなりの投資

 –あらためて丸亀製麺の起業のきっかけは。

 粟田 四国に行き、繁盛している製麺所を見て純粋に感動したことがきっかけです。低単価でおいしいものが提供される場所に、人が集っていたことは衝撃でした。

 大東 丸亀製麺さんの強みはCKが要らず、遠隔地にも出店できることです。当社が鮮度を追求するには、一次加工の核となるCKが不可欠です。昨年末に初出店して現在4店舗を展開する北海道は好調なのですぐにも10店舗に広げたいですが、CKが手狭という課題もあります。CKありきで材料を日配できる場所にしか展開できないですが、丸亀製麺さんは店舗イコールCKなので、場所を限定されることがないですね。

 –CKイコール店舗となると、各店舗での技術指導が大変ですね。

 粟田 製麺機があり、説明書通りに使えばいいようですが、実際にはそれだけではできず、経験値が必要です。

 大東 当社がCKを作るにはかなりの投資が必要です。店舗が工場の丸亀製麺さんは出店しやすいですが、1店舗のコストはかかるはずです。

 粟田 1店舗当たり約7000万円かかります。そのうち、製麺機が高く、厨房機器は約1000万円です。ビルイン出店なら約5000万円です。

 大東 年間でかなりの投資額になりますね。

 粟田 そうですね。年間120出店を目指していますが、ピークの時は100億円かかりました。その時は身震いがして、有利子負債の重さにどれだけ耐えられるかでした。今は店舗を小さくしているので年間80~90億円です。

 大東 しかし、120出店で投資額80億円が10年続いたら、償却するのが大変です。いったん止まったら大変ですが、マンモスになりますね。

 当社は厨房が重装備で出店投資は8000万~9000万円です。今後は厨房をコンパクトにして客席を増やす方針です。また、カラフルでシンプル、今までと違う餃子の王将を作りたいと新潟・北海道で取り組んでいます。

 ●人を育てる教育の徹底

 –共通点は厨房がオープンキッチンであることです。

 大東 なにより活気があります。厨房を見せることは「今できました」と鮮度の提供も大きな売りです。

 粟田 そうですね。本当にそうです。

 大東 だけど鮮度を提供するには管理が重要です。

 粟田 水は特に気を遣います。

 大東 それを実現するのは人です。

 –外食産業は人産業といわれます。

 粟田 当社では全国27拠点の店舗内研修場を作り、技術とサービスの心を教えていますが、なかなか難しいです。

 大東 当社も研修がようやく形になってきました。従業員も制服が似合い、人となりができ、品格や資質が出てきました。難しかったですが、変わってきました。当社が成長できたのはマネジャーが育ったおかげだと思います。鍋を振るうのがマネジャーではなく、問題を解決するのがマネジャーです。管理者は何人ですか。

 粟田 全体を統括している本部長が1人、部長が3人、その下に課長級のチーフマネジャーが1人当たり50軒を見て、その下に十数人いるマネジャーが各3~5軒見ています。

 大東 当社のマネジャーは24~25軒を管理しています。

 粟田 当社はパート比率が高く、手が掛かります。

 大東 面接と求人募集もマネジャーの仕事ですか。

 粟田 求人募集は本部で一括しますが、面接はマネジャーです。

 大東 当社には、接客などを含めてパートへの教育を開店まで徹底して行う女性がいます。3~5年選手の女性6人ですが、その枝葉を増やす考えです。また、教育部長による20~30人への1日がかりの徹底教育も行っています。昔は考えられないようなパート・バイトがいましたが、今はかなり変わりました。そういうことから、1軒1軒の底上げができればと思っています。粟田社長はうまく研修しておられますね。

 ●何を売る店かを明確に

 –日本における外食産業の位置付けと求められる外食企業とは。

 大東 日常食にしっかり入り込み、何を売る店かが明快なことが生き残る秘訣です。当社は中華料理を軸に、メーンを強くしながら変化させていて、セットメニューは店長次第で何を売ってもいいことにしています。たまにうどんを扱う店もあります。攻める意欲、危機感、闘争心、モチベーションの高さが必要で、店長の力量で変化できる顔を持っています。指示待ち店長はいません。

 –その代わりに裁量も大きいです。

 粟田 すばらしいですね。外食産業は厳しくなってきたと実感しています。日本は食が氾濫し過ぎて、食事を取る習慣も多様化し、外食、中食、内食のすべてが一つの食を取りに行く時代になるのではないでしょうか。その点でも、明確な来店動機、来店目的を抱いていただける魅力ある店作りをしなければなりません。

 –その厳しい環境下で、両社とも1000店舗を目標値に掲げていますが。

 大東 計画では、餃子の王将は日本国内で最高1000出店が可能とシミュレーションしています。丸亀製麺さんは、数年先に1000店舗なので、2000店舗も視野に入っていますか。

 粟田 いえ、当社も国内は1000店舗です。もっと出せるのかもしれませんが、あとは海外です。今期計画は国内120出店ですが、1000店舗になると当然、1店舗の抱える商圏が細分化します。既存店の足下が狭くなることに対して、新たな顧客の開拓は不可欠です。課題はまだ顕在化していませんが、今後の出店戦略は一層緻密化しなければなりません。

 大東 当社の店舗は約65%が関西にあります。本来なら構成比は関東と逆転しなければならず、そういう意味ではまだ伸びる余地があります。丸亀製麺さんも当社と同じで路面店、郊外店、ビルインと出店候補地が限定されない強みがあります。国内展開には自信があるでしょう。

 ●海外店舗は管理が大変

 粟田 とんでもないです。周辺競合調査をして、慎重に出店しています。

 大東 実は当社は市場調査をしません。第六感で出店を決めます。周辺競合がなければ集客の自信はあります。実際、京都には5店舗が5km四方にある地域があります。

 粟田 当社は最低4km離れないと出しませんが、実際は6~7km必要です。

 大東 田舎なら6~7kmで競合店になります。

 粟田 駐車場で出口調査をして客がどこから来たかをマッピングし、商圏が重ならないことを調べてからしか出しません。原始的ですが投資が大きいのでそれぐらいしないと怖いです。

 大東 繁盛しているから、すぐ償却するでしょう。

 粟田 4~5年は掛かりますので、慎重に出店しています。

 大東 当社も3年償却を目指していますが、簡単ではありません。投資の1.5倍を売上げないとなりません。

 粟田 当社で1.5倍はぎりぎりです。

 大東 しかし、年間100出店以上となると、3日に1出店の計算で大変ですね。すべて直営ですか。

 粟田 はい、国内は直営です。フランチャイズ(FC)は難しいです。できれば海外も独資でしたいですが、パートナーが必要な国もあります。

 大東 タイにも出店されましたね。

 粟田 タイはFC出店です。そのため詳細な初期投資はわかりませんが、日本の半値程度です。本来、タイでの出店はもっと安く出せるはずですが、日本から製麺機を持っていくので、半値程度掛かります。

 大東 他のアジア圏もFC展開ですか。

 粟田 まだわかりません。ロイヤルティーをいただきますが、やり応えがないのでFC展開はあまり好きではありません。フランチャイジーと一緒に店舗作りをしたいのですが、指導料が掛かるので店舗に入ることをFC側に途中で断られるケースもあり、少し寂しい思いをします。

 大東 私もFC店舗ではいろいろと不備な点が目に付きますが、直接言わずにマネジャーに伝えるようにしています。

 粟田 FCは他社の店舗という感じでなかなか踏み込みにくい。合弁や出資の方が積極的に出店できます。

 大東 そうですね、その方が楽です。当社は中国の大連に出店していますが、管理面がややこしいです。

 粟田 中国は数軒なので、まだそれほど苦労がわかりませんが大変です。

 大東 中国の店舗はどうですか。

 粟田 出店地によって違い、上海はよく、南京が苦戦中です。

 大東 上海はどれくらいですか。

 粟田 現地では高級な客単価30元で、1日700人集約するので、いい方かと思っています。

 大東 2万1000元ならいいですね。南京はどうですか。

 粟田 商業ビルの完成前に出店したので、集客は1日200~300人です。あちらはモールでも一斉オープンでなく工事をしながら開店するので、入居が増えた後の集客に期待しています。

 大東 丸亀製麺さんは日本の店舗の形のままで出店できる強みがあります。当社の業態は中華料理なので本場の中国で勝負するのは大変ですが、看板メニューの焼きギョウザは大連でも知られるようになり、現地の店舗が販売し始めています。ギョウザは負けないと思えますが、それでも思うほど売れていません。丸亀製麺さんの南京店くらいです。大連中心部の一番大きい店舗は家賃交渉が決裂して閉店したので、現在は4店舗で展開しています。上海の家賃は高いでしょう。

 粟田 2等立地で約80万円です。

 ●世界見据え拠点作りも

 –海外の話題が出ました。関西から日本全国、さらに世界へと展開する成長戦略をお聞かせください。

 大東 現在、日本国内で650店舗ですので出店余地はまだあります。が、世界を見据えて、拠点やきっかけ作りは始めたいです。中国大連の店舗は形がまだ出来上がっていません。韓国にも興味がありますが、早急に海外で多店舗展開をすることは考えていません。将来完全に形が変わる可能性もありますが、足掛かりは作りたい。

 日式中華は、清潔、サービス、おいしさが完璧に揃っていて、あとは海外で味と値頃感をどう追求するかです。東南アジアもいいし、ヨーロッパでも展開できるはずです。タイやフランスからはよくお誘いを受けます。

 粟田 フランスの中華料理店では行列ができています。餃子の王将さんが出店したら大いにはやるはずです。当社の海外戦略は全世界へ広く展開することです。地域を絞らず、出店して反響を見て判断します。幸いにも、当社は1店舗ごとの投資で出店できる強みがあり、仮に失敗しても全体への影響は少ないのです。

 大東 ギョウザなくして王将は出せません。ですが、命のギョウザを提供するには工場が要ります。麺や味付けには対策が打てますが、ギョウザは一次加工場となるCKが必要です。なので、当社の海外出店は難しい。中国での独資展開は大変なので、今後は合弁も検討します。

 粟田 本当にそうですね。

 大東 粟田社長はそれを知っておられたのがすばらしいです。

 粟田 いえいえ、最初は独資で、業態が当たるとなればどこかと組む形がいいと考えています。最初から組んで業態が当たらないと気まずいし、合弁先あれば簡単に辞められません(笑)。

 –丸亀製麺で海外200出店を目標に掲げておられます。

 粟田 アジアを中心にと考えていますが、広く浅く全世界に面で広げて、行ける地域は集中的に展開します。まだ日本でも成長の余地があり、利益もある程度出していますから、海外へ少し投資してもいいかと思います。

 大東 国内1000店舗、海外200店舗と夢が大きくていいですね。当社のFC店舗は半分以上が元社員です。直営店と遜色ないオーナーさんにFC展開してもらっています。

 ●“店格”がキーワードに

 –海外では日本食が注目され、日本には海外すべての食があります。食のあふれる日本国内での企業・ブランド戦略についてはいかがですか。

 大東 難しい問題ですが、誰もが認める店作り、すなわち“店格”を上げることだと考えています。ですので、今後も同一業態で展開し1軒1軒を強くして支持していただける方法を考えていきます。

 人の成長、付加価値を付けながら、店舗設計にも変化を利かせ、支持してもらえる商品を考え続けます。10年前の焼きそば、焼き飯、中華丼、天津飯と比較すると、今はいずれもグレードアップしている自信があります。ただ、今までの変化はすぐ目に見えましたが、これからは目に付きにくいはずです。小さい山を登り、次はより大きな山に立ち向かう時です。大変ですがチャレンジしたい。

 変化を気付かせる、お客さんに訴えかける店舗を作りたいです。今の経営陣もまだ変われるとの思いです。餃子の王将の土俵で、どんどん変化させながら取り組みたいです。強敵の参入も多いですが、人の土俵で勝つには1.5倍、2倍の強さが必要で、同じ力で勝てるはずがありません。地盤や信用性が必要で、一般消費者からの支持には、何か強く強烈に訴えかけるものが必要です。

 セルフうどん業態も同様に競合が参入しているけど丸亀製麺さんには強みがあります。勝つには奇抜な何かがないと絶対入り込めません。同じ力なら先人が絶対に強いと当社の従業員にはいつも伝えています。丸亀製麺さんもここまで来られたら強いと思います。

 ●専門性を感じてもらう

 粟田 ありがとうございます。大東社長の言葉をなぞるようで恐縮ですが、“店格”を上げることを非常にイメージしています。“店格”いう言葉は今初めてお聞きしましたが、まさにその言葉通りだと思いました。社内ではよく“看板を磨く”といっていますが、それがまさに“店格”です。低価格ですが、安物屋ではいけません。専門性を感じてもらい、値段の割に“ええやないか”と思ってもらえる存在になりたいです。

 値段だけで選択される店にはしたくないですが、価格も重要な戦略なので、今のワンコインの中でよりよいものを出す努力をしていきたいです。たとえば、創業時のイメージを変え、今は値段より品質を評価されるユニクロさんのように、安いけれど商品がよい、と気に入ってもらえる店舗を作りたいです。

 それと、お客が楽しめることも重要です。うどん以外でも自在に好きなものを取ってもらえるように、どこでも買える天ぷらやおにぎりですが、他社よりもちょっとよいコメやよい海苔を使い、できるだけぬくぬくのおにぎり、揚げたての天ぷらを食べてもらう努力をしています。

 その点では陳列も他社より温かさにこだわります。餃子の王将さんをうらやましく思うのは、家族で分けて食べられる点です。非常においしいけれどいろいろ注文できる値段帯です。家族がギョウザをつつき合う姿は、本当の意味での楽しい食事です。他社ではなかなかまねができない、圧倒的な強さだと思います。

 取り分け業態でないですが、当社は好きなものを自由に取ってもらえるチョイスできる状態を提供できることが強みです。ファミリーレストランは1人完結ですが、餃子の王将さんは取り分けができ当社はセルフだけれども選択肢がある点がそれぞれのよさです。

 当社も手作り、出来たて、人の姿が見えるオープンキッチンにこだわっていますが、若い時分は餃子の王将さんのオープンキッチンからの中国語オーダーをまねるのがマイブームでした(笑)。

 大東 客単価はいくらですか。

 粟田 520円です。

 大東 うちは840~850円です。

 粟田 当社は夜があまり強くなく昼に売り切る商売ですが、餃子の王将さんは時間を問わず強いですね。

 –丸亀製麺では朝うどんを提案されています。

 粟田 啓蒙活動なので、まだそれほど売りは多くありませんが、めげずに続けます。四国のうどん屋は朝から開いていますから。

 大東 回転寿司の勢いが一時からはダウンしています。当社もですが、丸亀製麺さんの影響は大きいです。だからお客を呼び戻すには、自分の土俵をどうするか、値頃感と自信を持ち、接客や提供など当たり前のことを当たり前に行えれば大丈夫です。店の雰囲気を作るのは人です。ハートです。食とは雰囲気です。

 粟田 人勝負ですね。オープンキッチンですからね。隠せません。

 ●土俵強く、値打ち提供

 –外食産業の未来についてはいかがでしょう。

 粟田 今後、外食産業が大きく成長することはなく、足をすくわれる世界になるはずです。

 大東 同感ですが、いかに自分の土俵をしっかり作るか、何を売るかにかかっています。安いだけではなく、値頃感が提供できればいいです。当社は大衆食堂なので高級路線を狙うわけでなく、お客の日常にどう入るかです。値段、値頃感、付加価値と、いわゆる“値打ち”があれば受け入れられるはずです。

 市場の変化は早く、お客にはすぐ飽きられますが、商品に魂が乗り移れば伝わるはずです。精神論のようですが、誰のための仕事ではなく、自分のために努力するスタッフが育てば強いはずです。丸亀製麺さんはパート比率が高いですが人件費コストは低いですか。

 粟田 本部人件費は全体の30%を占めますが、店舗別人件費は比較的軽い方です。パートさんが習熟すると店を任せて、マネジャーが2~3店舗を兼務します。

 大東 その点でも店舗展開は早いです。当店は鍋を振るう調理人が育たないと出店できない。ここは大きく違いますね。

 粟田 その点、当社はパートさんの力がとても大きいです。

 大東 CK要らずで、スタッフもパート比率が高いことは早い店舗展開が図れる強みです。海外でも同じ展開が可能ですし、うどん勝負なので食材も少なくてすみます。

 粟田 ありがたいことに食材が少ないことで、管理がしやすく、ロスも出にくいです。

 ●まだまだ伸びる可能性

 –70周年を迎えた時の両ブランドの姿はいかがでしょう。

 大東 丸亀製麺さんは夢があって、グローバルなすごいブランドになっているでしょう。

 粟田 大きな夢ですが、なかなか日本の外食企業が世界ではうまくいっていない現実もあるので、一矢を報いたいとの思いが強いです。世界で戦う、世界的な飲食企業になりたいです。50年先の丸亀製麺の姿はまだわかりませんが、うどんをワールドフードにしたいと考えています。

 大東 当社も世界へ打って出なければと思いますが、今はまだ国内です。ですが、単一業態で売上げを伸ばし続けている自負があります。それは、まだまだ何か手を加えれば、伸びる可能性を秘めているということです。

 先ほどほめてもらったギョウザがまだおいしさを追求し続けているように、値段、料理、品質、サービスをより高いレベルで提供できるよう“店格”を上げれば、違う客層を呼べるはずです。今後は女性が何気なしに入れるファッション性の高い店舗を作ります。昔は完全に男性の店でしたが、最近は女性客も増えつつあります。ただ、いくら店を変えても、人が変わらないと同じ。ふさわしい人材への教育が必要です。

 粟田 そうですね。店も時代とともに変化していかないと取り残されますね。

 大東 ある意味、当社は堅実かもしれません。私が社長に就任した時は売上げより多い470億円の借金がありましたが、今は無借金になれました。これも現場の強さです。

 粟田 それはすごい、そんなにあったんですか。

 大東 1人1人のモチベーションです。やっぱり人ですね。朝出勤するのが楽しみになるような会社を作って、利益が出たら従業員に還元する報奨金制度や決算ボーナスを実施しています。

 粟田 すごいお給料と聞いています。

 大東 店長は40万円です。

 粟田 さらに報奨金とボーナスが加わるんですよね。すごいです。年収600万円ですね。

 大東 刺激というか、前に向いていくためのやる気が必要です。労働生産性、前年対比、営業利益率、売上げのそれぞれで5段階のクラスに分けて、その時々の基準を設けながら報奨金を支給しています。報奨金はひと月で約2000万円計上しています。

 当社は前日までの数字がすべて翌朝9時にわかります。売上げはすぐに出ても細かい中身は翌月にしかわからない会社が多いですが、売上げ、販売利益率、宣伝広告費、人件費のすべてがわかり、それを見てマネジャーが動けます。

 粟田 システムに投資をされていますね。中身がわかった時点は過去ですからね。当社もまだそこまで徹底できていませんが、システムには投資しなければなりません。

 大東 そう言っても、もうすぐ追い越されますわ(笑)。

 粟田 いやいや、まだまだです。

 大東 伸び率の勢いが違います。外食産業のリーダーになってください。今日はお会いできてよかったです。

 粟田 こちらこそ、ありがとうございました。

 ◆王将フードサービス社長 大東隆行氏

 おおひがし・たかゆき 1941年3月8日生まれ、大阪府出身。61年大東商事を自営、69年中華料理店「餃子の王将」入店後、店長、営業、生産、開発の業務を経て、2000年に4代目社長就任。06年に大証1部上場。07年に500店舗達成。就任時は有利子負債470億円と業績低迷にあった倒産危機を、財務体質の改善・強化と原点の見直しに力を注ぎ2年間で危機を脱す。店舗のオープンキッチン化、看板商品のギョウザや一品ごとの料理の付加価値向上、教育研修制度や報奨金制度などによる個店の活性化で独自のチェーン展開を進め、外食産業の新スタンダードを築く。12年7月には45周年記念で2億円分の割引券を配布し話題を呼んだ。

 ◆トリドール社長・粟田貴也氏

 あわた・たかや 1961年10月28日生まれ、兵庫県神戸市出身。学生時代のアルバイト経験から飲食業の魅力に目覚め、85年8月焼鳥店「トリドール三番館」を創業。90年(有)トリドールコーポレーションを設立し、代表取締役社長就任。95年10月に(株)トリドールに組織変更。2000年11月に「丸亀製麺」1号店を出店後、11年5月に全都道府県進出を果たし、同8月に外食チェーン最速の500店舗達成。現在は年間120出店をベースに国内1000店舗展開へと積極的に出店を進めるうえ、11年4月のハワイ・ワイキキ店を皮切りに、タイ、中国へ出店し、現在は、ロシア、オーストラリア、韓国、台湾など幅広い国での展開を計画し、3年後の海外200店舗を目指す。

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