トップの視点:WDI・清水謙代表取締役 ホスピタリティで「ワオ!」を演出
◆三方よしに「未来よし」を加え「四方よし」 創業50年を機にサステイナビリティ強化
昨年、創業50周年を迎えたWDIは、「カプリチョーザ」や「ウルフギャング・ステーキハウス」など国内外の優良ブランドを輸出入し展開するほか、「ちんや」といった国内老舗ののれんを承継。「ダイニングカルチャーで世界をつなぐ」を理念に食文化の伝道師としてマルチブランド経営に先駆けてきた。現在展開するストアブランドは27事業・合計162店舗(海外店とFC店含む・5月末現在)。そして半世紀を節目にWDIの存在意義を見直す「サステイナビリティ経営」を打ち出した。WDIの伝統と革新のDNAを受け継ぎ、経営者として20年目を迎える清水謙代表取締役に展望を聞いた。(岡安秀一)
●ハレの強みが自粛反動を吸収
–事業の概況は?
清水 かなり復活した。外食に飢えたお客さまが目立ち、1回の食事に対する期待値が高まっている。アッパーブランドほど集客も売上げも好調。物価高を反映した価格調整(値上げ)の影響もあまりない。当社は「ワオ!」と驚かれるハレの外食を掲げてきた。その強みが外食自粛の反動を見事に吸収している。一方、店舗数が最多の「カプリチョーザ」は、主に商業施設へ出店しており、各施設の営業方針にも左右されるため、一部地域で回復が鈍化傾向にある。全体業績はコロナ前に比較して少しショートしているが、コロナが5類感染症に移行し、アジアからのインバウンドも再燃する今後、十分に巻き返せるだろう。
–お客の外食に対する意識は変わった?
清水 約3年間も規制されたのだから、変わって当たり前だと思う。外食の回数が減った分、1回の予算や時間を増やす者がいれば、テイクアウトやデリバリーを望む声もあり、好きな食材を買って自炊する人もいる。当社の場合、しばらくは自粛反動と訪日復活の追い風を受けるだろうが、それが続くとは限らない。お客さまの意識が変化したように、当社にも変化が必要だ。それが外食事業参入50周年を機に打ち出した「サステイナビリティ経営」である。その意味でコロナ禍の苦境は、当社の存在意義を見直し、新時代に向けてかじを切る節目となったと思う。
●地球環境にもホスピタリティを
–サステイナビリティ経営とは?
清水 売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よしに、「未来よし」を加えた「四方よし」を実現する取り組みだ。
当社はホスピタリティを基軸に本物の食文化とグローバル志向を尊重し、「一食限りの海外旅行気分」を演出してきた。その理念は変わらないが、ビジネス的なホスピタリティに偏っていると、独りよがりのきらいも出てくる。だから今後は、お客さまだけでなく、「環境、社会にもホスピタリティを」との結論に至った。50年を経て未来に向かうなら、地球の未来もきちんと考えるべき。それこそ当社の存在意義だと。
このほど発足したサステイナビリティ経営委員会では、環境・食材・人財という3つの分科会を立ち上げた。中長期的な視点で検討と実行を重ねていく。現状、エネルギーの省力化、食材廃棄の削減で効果を発揮し始めている。
–人財に関しては?
清水 サステイナビリティ経営を通じて、従業員や顧客にも何かしらの形で社会課題解決への貢献に参画している意識を共感してもらうこと。その共感の広がりの中で、環境への優しさは、他人や自分への優しさにもつながり、結果的に皆の幸福感が強まると思う。そうした配慮の循環はリクルートやリテンションにも大きく役立つはず。その上でダイバーシティの整備を目指したい。
●ファッション感覚の健康志向
–海外の外食で注目しているトレンドは?
清水 数多くのトレンドがあるので、これとは言い切れないが、不可欠な潮流は健康志向だろう。これまでの当社は「ボリューミーでエネルギッシュかつ男性的な料理」というイメージの業態が多かったが、今後は健康志向にも注力する。
今月、米国のマイアミに「Flora Plant Kitchen(フローラプラントキッチン)」というベジタリアン専門店を開業する。南米(ラテン)のエッセンスを持ったスタイリッシュで個性的なプラントベース料理のレストランだ。それが成功したらニューヨークとハワイに出店して、予定通りにいけば3年後、日本に持ってきたいと考えている。その頃には日本でもベジタリアンやヴィーガンへの理解が一層深まっていると思う。
すでに欧米では、そのようなライフスタイルが台頭している。主義として貫くというよりも、週1~2回「ベジタリアンの日」をつくり、ファッション感覚でプラントベースやサステイナビリティに参画する人々が増えている。そうした潮流が日本でも起こるだろう。
●価格調整はポジティブに
–値上げについては?
清水 値上げは、あくまで世相を反映した「価格調整」であり、あまりネガティブに考えていない。昨今の値上げラッシュは、やっと日本が正しい方向に歩み始めた表れであり、むしろポジティブにとらえるべき。お客さまに納得いただけるよう、価格以上の付加価値を追求するのみだ。
一方、人件費の高騰も避けられない。報酬アップするならば、同時にスキルと生産性の向上を実現して利益を高める必要がある。そうなると外食産業は二極化する。片方は、ロボットやAIを駆使して利益を追求するチェーン店型経営。もう片方は、人をしっかり育て、本物志向を尊重し、感動体験を提供する。つまり人件費は高くても、その人自身が収益を上げる原動力となり、付加価値を追求するホスピタリティ型経営。当社は後者を堅守する。効率化に偏ると、つまらない業態ばかり増えてしまって、若い世代が楽しめなくなる。そんな食文化の衰退を招かぬよう努めてゆきたい。
–ありがとうございました。
●略歴
清水謙(しみず・けん)=1968年東京都出身。WDI創業者・清水洋二氏の二男。慶大卒業後、さくら銀行(現三井住友銀行)入社。98年WDI入社。2003年代表取締役就任。現場主義を徹底した事業体質の強化を図る一方、海外展開を積極的に行い、WDI第二の成長戦略を推進。「国内海外半々のグローバル企業を育成するのが自身の役目」だという。
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社名=(株)WDI/本社所在地=東京都港区六本木5-5-1ロアビル/設立=1954年/店舗数=27ブランド・162店舗(海外10ヵ国・25店舗を含む)/年商=300億円(2023年度見込み)/事業内容=「ダイニングカルチャーで世界をつなぐ」を企業理念に海外の人気レストランを輸入するほか、独自の業種業態を展開。外食文化発展のイノベーターとして先駆的な事業を推進。2006年ジャスダック上場。主なブランドはカプリチョーザ、ウルフギャング・ステーキハウス、トニーローマ、ハードロックカフェ、エッグスンシングス、ババ・ガンプ・シュリンプ、サラベスなど。
●清水謙氏 インタビュー動画
(1)創業50周年を機に新たな取り組み(収録時間3分33秒)
(2)あの話題の業種業態に初挑戦!(収録時間2分50秒)
(3)ホスピタリティーの充実を推進(収録時間3分34秒)