トップの視点:とんでんホールディングス・長尾治人社長 あえて貫く“非効率”

2023.08.07 534号 07面

 ◆40年前に描いた外食の原点守る 中食事業3%から8%に伸長

 北海道発祥の「和食処とんでん」(以下、とんでん)は創業以来、北海道そば、天ぷら、鮨、茶碗むしを看板メニューに、定番和食をセット提供する和風ファミリーレストランスタイルを守っている。「楽しい時間をお手伝いするのがとんでんの役割」と心得、時代に逆行するかのような「非効率」を貫く。外食産業が目覚ましく進化している今、とんでんが考える飲食店の在り方とその目指す姿について、長尾治人代表取締役社長に話を聞いた。(森明美)

 

 ●店利用の価値観が複雑化

 –コロナ禍を経て飲食店はどのような変化が見られたか?

 長尾 飲食店側も利用客もそれぞれに社会的制約を受けてきた中で、価値観が複雑化した。コロナ以前は、飲食店で「騒いではいけない」「会話を楽しみたい」という異なる考えの利用客が共存できていたが、この4年間で価値観の違いを互いに強く意識するようになり、同空間での飲食に抵抗を感じるようになった。店の現場もお客さまのニーズが複雑化し、悩みながら営業している。とはいえアフターコロナに向かい、時間が解決していくのではないか。

 –4年間の苦境下で新規開拓したことは?

 長尾 テイクアウト・デリバリーに注力し、その需要が一気に増えた。テイクアウト販売は20年以上前から展開していたがスーパーやCVSの惣菜が強く、厳しかった。それがこの4年間で当社も中食プレイヤーの仲間入りができ、事業として成長した。テイクアウト・デリバリーの売上げ比率は、以前は3%程度だったが今は8%に達する。お客さまが食後に店内調理の土産を購入したり、デリバリーの注文も多い。コロナの逆境を機に、北海道の企業とタイアップした物販商品も軌道に乗っている。

 

 ●来店動機に合わせられる業態

 –とんでんが目指してきた飲食店像について。

 長尾 とんでんは鮨屋からスタートし、1978年にファミリーレストランとして1号店を出店した。85年からは多店舗展開を進め、94年には看板を「和食レストラン」に変えた。小料理屋の要素を取り入れて一品料理を増やし、飲酒目的の利用もしやすい店を目指した。20年から看板を「北海道生まれ和食処」に変更。その変遷が意図するのは、ファミリーレストランという枠を超え、お客さまの来店動機に合わせた利用ができる業態づくりだ。

 –“和風ファミリーレストラン”にはこだわらない?

 長尾 とんでんの来店客を見ていると、利用目的も満足志向も個々で異なる。そうした中で、とんでんらしい料理・空間・接客を提供し、それぞれの来店動機に見合った楽しい時間をお手伝いする店づくりを目指している。われわれが目指す“とんでんらしさ”というのは今の時代、実はなかなか難しいところもあるが。

 –どういった点に難しさがある?

 長尾 とんでんが追求するスタイルは、ビジネスとして成り立ちづらい。人件費も食材も高騰している現状、多くの外食企業が効率化優先の店づくりを迫られている。実際、とんでんと同タイプの外食店は減少傾向だ。競合店が増えない中、それでも潜在ニーズは一定数あることで、とんでんには根強い集客力がある。

 

 ●生産性より接客に注力

 –ビジネスとして成り立ちづらい、とんでんのスタイルとは?

 長尾 ひと言でいうと“非効率”な手法。もうかるかと言われると難しいところではあるが。例えば洋食と比べると、とんでんで提供しているのはメイン料理が1つではなく、鮨、天ぷら、そばが並ぶようなセットメニューが多い。同じ客単価の他業態と比べると、これは間違いなく非効率。だから他店はあまりやらず、そこがとんでんの強みでもある。効率化も進めているが一方でこの路線は守る。

 –「効率化」の取り組み事例について。

 長尾 配膳ロボットを23店舗にテスト導入したが、うまく活用している店と現在も模索中という店に大きく分かれた。お客さま視点ではなく“生産性を上げる”という店都合だけの目的で使うと、やはり店にはなじまないことがわかった。従業員からもロボットへの拒否感が出てしまう。料理を運ぶ、下げる作業はロボットが担い、そこで手が掛からなくなった時間を接客に注力するといった、お客さまにとってのメリットにつなげることができた店はロボットと従業員がうまく融合している。

 –人材不足やコスト高の中「非効率」に振り切る?

 長尾 配膳ロボも含めて効率化を追求した設備投資をする外食店は、どんどん増えていくだろう。一方で、ホスピタリティーを求める来店動機というのは必ずある。そうした時に、とんでんを利用していただきたい。また、営業コストが年々上がる中、これまでは売価の値上げに踏み切れなかった。しかし、世界経済の流れを見ても、今後は売価や従業員の所得の見直しが図れる。これからの5年間は、従業員の処遇を改善する収益モデルへと大きく変えるチャンス、と見込んでいる。

 

 ●ひと昔前の古き良き外食を

 –今の消費者が外食に求めていることは?

 長尾 外食は基本的に、家庭ではできない食事が求められる。家庭の食卓で最も難しいのは、家族が個々に違う料理を食べること。その点、外食では各自が好きな料理を注文しながら、楽しい場を共有できる。その心地よい環境を提供するのが、飲食店の役割だろう。そうした心地よい場は、お客さまと従業員という人と人との関わり合いによるところも大きい。

 –とんでんの客層はよく、ひと昔前の古きよき外食を彷彿させる穏やかな雰囲気が感じられる。

 長尾 店や従業員はお客さまに相当助けられている、といつも感じる。とんでんの雰囲気をよく理解して来店してくれるお客さまが多いからこそ、従業員も気持ちよく接客し満足を提供できる。そうしたよい関係性が育まれているのではないか。

 –外食が今後目指すべきところは?

 長尾 約半世紀前に日本で外食産業が生まれた時、どの創業者も提供したい料理や空間に理想のビジョンを描いていたはずだ。お客さまから支持され続けるには、その原点を変えることなく追い続ける姿勢も大事だろう。とんでんでは新しい価値観を取り入れながらも、40年前に描いた“非効率な当たり前のサービス”を変わらず追求したい。

 –ありがとうございました。

 

 ●略歴

 長尾治人(ながお・はるひと)=1963年北海道札幌市生まれ。大学時代はとんでん1号店でアルバイトし、86年札幌の地場スーパーに就職した後に、89年製菓・製パン事業の(株)とんでん製菓に入社。92年から外食事業を手掛け、とんでんグループの要職を経て2006年(株)とんでん代表取締役社長に就任。さまざまなシーンで食事と共に楽しい時間を過ごせる店づくりを目指し、レストラン事業の運営に取り組む。

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 社名=(株)とんでんホールディングス▽本店所在地=北海道恵庭市戸磯616-2▽北海道生まれ和食処とんでん:店舗数=全96店舗(北海道14店舗、関東82店舗)、湯けむりの丘つきさむ温泉(北海道札幌市):1ヵ所/事業内容=レストランチェーン経営、日帰り温泉施設の経営、おせち料理の製造・販売、オンラインショップの運営、工場の運営。 ※23年6月現在

 

 ◆長尾治人氏 インタビュー動画

 (1)非効率も極めれば武器に!(収録時間5分26秒)

(2)配膳ロボ導入で見えてきたこと(収録時間3分22秒)

(3)コロナ後の外食を読む!(収録時間2分26秒)

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