海外通信 外食ビジネスの新発想(80)フードカート・ビジネスの台頭
従来型のフードカート。左はハラールのバーガー、ホットドッグ、チキン・ウィングなどの定番アイテムのフードカート。右はジュース、スムージー、アイスクリームのカート。どちらもトレイラー式で、車で引っ張って移動できる
●エスニック、サンドイッチ、ジェラートなど多彩
パンデミック以来、リモートワークがニュー・ノーマルになり、オフィスに人が戻ってこなくなったせいで、以前はオフィス街に何台も連なっていた大型のフードトラック(キッチンカー)はあまり見かけなくなった。レストランの外に設けられた屋外ブースが定着する一方、やや小型のフードトラックやフードカート(屋台)が健闘している。フードトラックは、それほど資本がいらないせいか、ギリシャ料理やメキシコ料理などのエスニック料理が多い。毎日、インスタグラムなどで居場所を知らせている。
従来版のアイスクリームトラックは、観光スポット、ショッピングエリアなど人通りの多い所ではまだよく見かけ、おなじみのテーマ音楽を鳴らしながら営業している。
ニューヨークにおいては、以前からフードカートは、ホットドッグ、プレッツェルなどでおなじみの存在だった。また調理設備を備えたトレイラー式のフードカートもまだよく見かける。公園にはベンチや椅子も多くあり、必ずフードカートを見かけるが、中でも「パラディス」のカート(写真(1))がおしゃれ。サンドイッチ、スープ、サラダやペストリー類、ビールやコーヒーなどの飲み物と幅広いメニューを提供している。
人気は、ビヨンセも乗ったという移動式ティーサロン車「ティーアラウンド・ザ・タウン」(写真(2))。ニューヨークの街並みを眺めながら、究極のアフタヌーンティー体験ができることから人気だ。経営側にとっては高い家賃を払わなくても済むし、正味75分という時間限定だから客はけもいい。移動しながらの営業なので定置を確保する必要もない。「一にも二にもロケーション」といわれていた外食店のコンセプトは、このティーサロン車には通用しない。しかも、マンハッタンの真ん中を走り続けるバス自体が宣伝車だ。予約・支払いはすべてオンライン。定員制でメニュー(85$・125$)が決まっているのでマネジメントも楽だ。
さて、イタリアのメーカー「テクネイタリア」のフードカート(写真(3))が、なかなかしゃれている。自転車やスクーターなどをつなげたものもあり、すべてに車両が付いているので移動も容易だ。ジェラート、ドリンク、ペストリー、コーヒー、クレープ、ピザ、サラダなど、さまざまな用途に向けた仕様が可能だ。例えば、コンパクトな生パスタ製造機を置いてカートの調理台でゆでて調理し、本格的なパスタ料理を提供することもできる。寿司もしかり。炊飯器、流し、冷蔵引き出し、ガラスの陳列棚などが揃っており、カート一つで寿司屋ができる。イベントやウエディングなどでもカートは人気だ。
全米レストラン協会は、外食産業の今年の売上高を過去最高の1兆1000億円と予想し、パンデミックから完全に立ち直ったかのように見えるが、実はかなりの変化があった。ドライブスルー、テイクアウト、カーサイドピックアップ、デリバリーの分野が、店内飲食の売上げを初めて上回ったという。また、最近のトレンドとして、食とは全く関係のないファッションブランドなどが、集客と宣伝のために、店の前にしゃれたフードカートを置いている。いろいろな用途で小回りの利くカートが今後も活躍しそうだ。