うまいぞ!地の野菜(37)岩手県現地ルポおもしろ野菜発見「芭蕉菜」
「子供のころから毎日のように食べていたのが芭蕉菜の漬物です。お茶請けには欠かせない漬物としてどこの家庭にもありましたし、これを食べるとご飯がすすむんです」という阿部(ゆう)子さん。
江戸時代から連綿と作り続けられてきた金婚漬(ウリの中に昆布・野菜を詰めて漬け込んだもの)を看板に、レストラン・地元産物販売を手掛ける(株)道奥(みちのく)を女手一つで立ち上げた人である。
芭蕉菜は、高菜類の一種で繊維質は硬く、辛みがきいた青臭さを感じる野菜。そのため生食はできず、「先人の知恵だったのでしょうね、発酵させておいしい漬物にしたんです」
代々伝えられてきた伝統ある漬物は、白菜より繊維質があるので長い間の漬け込みに耐え、歯ごたえもしゃっきり、さわやかな辛みが感じられる風味あるもの。
看板の金婚漬が軌道に乗りだした三二~三三年前、金婚漬に使うウリの裏作として何かを栽培してみてはと着目したのが芭蕉菜だった。
ところがあれだけなじみの深かった芭蕉菜も、栽培者が皆無といってよいほどの状況。なんとか復活させたいと思い、農家の主婦に「昔ながらの純種を守っていきたい、また地域の特産物として育てていきたい」と説得。意をくんでもらえ、協力体制が整う。
栽培法は、まず土作りから。株をしっかり張らせるために元肥をきかせる。
9月に播種。株間を広く取り、できるだけ横に広がらせて育て、とうが立つ直前の四〇~五〇日で収穫する。
虫食いでも安心・安全な野菜にしたいので、できるだけ農薬を使わないように心掛ける。しかし隔離したハウス栽培なら比較的楽だが、ウリの後作の露地栽培ではかなり難しい。極力抑えて一~二回の使用。
また高菜系特有の茎と根の境目にうぶ毛が密集しているため、土をできるだけ付けないように切り取るなど、収穫時にはかなり神経を使う。
「反収は少なく、手間もかかるのが芭蕉菜。なんとか生産者の理解を得て、ここまでこれました」
長い道のりを経ての商品化だけに、阿部さんの表情は感慨深げ。
物産販売「みちのく」では漬物として、またレストラン「金婚亭」では芭蕉菜おにぎりとしてメニュー化。立ち寄る観光客の人気を集めている。
長野の野沢菜、広島菜に対抗して商品化した岩手の漬物・芭蕉菜。しかし、漬け上がった当初は緑も鮮やかな色合いを保っているが、時間の経過とともに黄色に変化していく。
「これを逆手にとって、古漬けで名前を売ってみよう」と発想転換するところが女事業家の阿部社長。
「コメの消費を願っての私の執念で作った」という次なる商品は、芭蕉菜と唐辛子の辛みを生かした「米っこべらし芭蕉なんばん」。
漬け込んだ芭蕉菜を塩抜きして刻み、海草、唐辛子を加え油で炒めた佃煮風のもの。
「とにかくお客さんに食べてもらわなくては意味がありませんから」と、おやき、蒸かし饅頭などで客を呼び寄せる計画だ。
■生産者=阿部(ゆう)子(岩手県花巻市西宮野目一一‐八八、電話0198・65・2250、FAX0198・65・5140)
■販売者=(株)道奥(みちのく=岩手県花巻市西宮野目一一‐八八、電話0198・65・2250、FAX0198・65・5140)
■価格=一〇〇g一三〇円。宅配可。プラス送料と消費税。