新店ウォッチング:「ロイスカフェシノア」

2002.02.04 245号 6面

昨年からの前代未聞のカフェブームの中、異業種から参入したアパレル各社が展開するおしゃれなカフェチェーンが話題を集めている。中でも、大阪に本社を持つファッション専門店チェーン企業の「クレヨン」社が展開する「ロイスカフェ」は、店舗数こそ多くはないが、独自の店舗づくりで多くの顧客を集めている。

近年話題のSPA専門店の老舗であるクレヨン社を紹介するときに欠かすことができないのが、ストーリーマーケティングという手法だ。同社では、架空の人物である「ロイス・クレヨン」という日英ハーフの女性キャラクターを作り上げ、各店舗はこの女性の部屋であり、店頭の商品は衣類だけではなくアクセサリーまですべてがそのコレクションであるという設定になっている。

こうした独自のコンセプトで全国に約六〇店舗のファッション専門店を展開している同社は、バーゲンを一切行わず、粗利益率は五〇%以上、本部在庫はゼロという優良経営で有名なのだ。

「ロイスカフェ」は、同じコンセプトに基づいた飲食店であるが、東京と大阪に展開している七店は各店舗ごとに異なったテーマで作り上げられており、最新店であるこの店は一九三〇年の上海租界をイメージしたというチャイニーズ系のフュージョン業態のスタイルを取っている。

店は、大阪の昼間の顔「キタ」の中心地、梅田の駅ビル群の一角である阪急三番街北館地下二階に位置しているが、このフロアは、通常の一階フロアからは直接に入館することができず、表に面した建物である「阪急三番街南館」と地下フロアおよび二階フロアのみでつながった特殊なフロアだ。

通常はパブリックスペースとなる階段とエスカレータ下を有効利用したこの店舗は、店頭部分が広いオープンカフェ風の客席となっており、さらに店内を巡る水路を渡ると、パーテーションで区切られた、いくつかの異なった雰囲気の客席スペースが配置されている。

エントランス導入部のうまさや、流行の個室感覚を巧みに取り入れて広い店舗を広く見渡せない工夫、入り組んだ通路の回遊性でさまざまな角度から店舗の内装を楽しめるレイアウト、違和感なく溶け込んだアンティーク什器と新しい家具の組み合わせなど、ファッション業界で培われたデザインセンスは、飲食プロパー企業にはない斬新な感覚といえる。

商品構成はチャイニーズをベースにカフェ風のアレンジを加えたものが中心でワンプレートに盛り付けたランチ商品「シノアプレート」(一三〇〇円)など、使われている食器やカトラリーも含めて、何よりもまず「見た目」で楽しめるメニューにあふれている。

当初は洋食業態としてスタートしたロイスカフェだが、アジアンテーストを打ち出した大阪茶屋町店から大きくブレークし、以後、和食・エスニック・中華と、アジア系のフュージョン業態での展開が基本となっている。

あえて調理のプロを置かずに、独自のコンセプチュアルな世界を守り続ける同社の展開は、決してスピーディーではないが確実な成功を積み重ねる新しい多店舗化の手法としても注目に値するだろう。

◆取材者の視点

「とにかく店が大きい」というのが第一印象である。

いくら商業施設内のスペース有効活用であるといっても、この立地でこうした規模の店舗を営業するのは至難のワザだろう。

実際、臨店時には、この店の隣は百貨店のフロア催事でもしばしば見受けられる中古CDとレコードのワゴンセール会場となっていたが、このフロア内は平日昼間でも人影はまばらであった。

ファッション業界の有名企業が経営する飲食店の特徴は、どこも企画とデザインを優先した付加価値ビジネスに徹し切っていることにある。

中途半端な効率性よりも「こだわり」を重視するその姿勢は、ある意味でフードサービス業の本質を突いているといえるのかも知れない。

中でも、ほかに類を見ない独自の経営で有名なクレヨン社がつくり上げたこの店は、イメージづくりという点において飲食業界のプロパー企業が学ぶべきところは大きい。

店内に配置された水路や、壁面に描かれたハスの花のイラストなどといった意匠部分だけではなく、商品づくりにおいても、お客から見たイメージが重要視されていることは、注文してみれば明らかだ。

皿の上に盛り付けられた各アイテムのボリューム配分や配色の巧みさは、まさに「デザインされた料理」ともいうべき見事さである。

ただ、まだオープンして日も浅かったせいか、臨店時には従業員の私語が少しばかり気になった。

また、これだけの規模を持つ店舗なのだから、昼間の時間帯にはドリンク商品だけ価格帯を下げて、利用客数の増加を狙った方が、この立地では有効なのではないかとも思うがどうだろうか。

◆店舗データ

「ロイスカフェシノア」((株)クレヨン)開業=二〇〇一年9月1日、店舗面積=一二六坪、客席数=一五四席、営業時間=午前10時~午後10時

◆筆者紹介 商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画・運営を手がけ、SCの企画業務などを経て商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。

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