新店ウォッチング:「おむすび工房GINZA十石」八王子店

2002.09.02 259号 5面

低迷する洋食業界をしり目に、和食が大きな人気を集めている中で、おむすび(おにぎり)という商材が秘かなヒット商品としてジワジワとマーケットを広げている。今回は、そうした「おにぎり」ブームの火付け役の一翼を担って躍進しているチェーン「GINZA十石」の最新駅ビル店舗を取材した。

この店は、一九九九年に銀座に本店を出店、その後、二〇〇一年の3月に現在のワキョウ・インターナショナルに経営を引き継いで、同年の9月には銀座プランタンへ二号店出店、翌〇二年の4月には恵比寿ガーデンプレイスの三越百貨店食品売場へ三号店を出店し、翌月5月に、今回の八王子駅ビル「ナウ」の改装リニューアルにともなって入店した。

この八王子店は二坪に満たない売場で月商三五〇万円を売上げる繁盛ぶりで、駅ビルの運営担当者も驚くほどの人気を博している。

シンプルで、かつ単価の低い商品であるだけに、これまで事業化が難しいとされてきた「おにぎり」ビジネスであるが、ここ数年の和食志向によって、都市部では多くの「おにぎり専門店」がオープンして、テレビや雑誌でも話題を呼んでいる。

しかし、同社の商品は決しておにぎり自体のボリューム感で売るような大きさではなく、また価格帯も、定番である「シャケ」や「タラコ」「ウメ」が一個一八〇~一九〇円という設定で、決して安さを売り物にしているわけではない。それどころか、現在おすすめ商品として売り出し中の「鮭とイクラ」という商品は、何と一個二五〇円という価格にもかかわらず、銀座本店では毎日二〇個以上を売上げるヒット商品となっており、デフレと言われる経済状況にあっても、決して消費者は価格だけで購入を決定しているのではないという傾向がハッキリと現れている。

同社の顧客層は圧倒的に女性が多いが、銀座の本店から恵比寿三越店までの三店舗では、立地条件もあって、周辺に勤務する若いOLなどが来店客の主流となっていた。しかし、今回の八王子店では、四〇代以上の主婦層が客層の中心となっており、ランチなどのために自分で食べる分を購入するというよりも、「惣菜感覚」で家族のためにまとめ買いするといった購買傾向によって、客単価も大幅にアップし、マーケットの可能性の深さを感じさせている。

同社のおにぎりは、昨今では魚沼産よりも評価が高いとされる妙高山麓産の「コシヒカリ」を使用しており、さらにコメの風味を最大限に引き出すために、炊飯用の水として軟水の「自然水」の導入も進めているという。

同社は、商品開発のポイントとして「単体でも十分に商品価値があるほどグレードの高い具材を選んで使用する」ことと、「おいしさだけではなく、見た目の楽しさも重視した商品作りを心がける」という、ふたつのコンセプトを掲げており、季節の食材などをテーマに、常に新商品の開発と、既存商品のブラッシュアップを行っている。

すでに、来る10月のJR山手線蒲田駅の駅ビル「パリオ」への出店も決定しており、今後も百貨店や駅ビルを中心にチェーン展開を計画しているとのことで、一〇店舗以上のチェーンを展開している企業がほとんど存在しない「おにぎり」業界にあって、大きく躍進する可能性を秘めた企業として各方面の期待を集めている。

◆店舗データ

「GINZA十石」八王子店(東京都八王子市旭町一‐一、JR八王子駅ビルNOW一階)開業=二〇〇二年5月15日、店舗面積=一・七五坪、営業時間=午前10時~午後8時、会社名=ワキョウ・インターナショナル(株)(東京都中央区銀座三‐九‐二、電話03・5565・6844)

◆取材者の視点

現在、「GINZA十石」を経営しているワキョウ・インターナショナル社は、この「おにぎり」ビジネスを展開するために設立された会社である。

ワキョウ社の社長である葉葺(はぶき)氏は、母体である新潟県の商事会社において主催された社内起業塾の第一期生であり、その素質を見込まれて三〇歳そこそこの若さで「おにぎり店」のチェーン展開という新規事業立ち上げの責任者に抜擢された。

一年近い準備段階のあいだに、首都圏を中心にさまざまな「おにぎり屋」の商品をひたすら食べ歩き、情報収集を行った。

そうこうするうちに、当時から味の良さで評判となっていた「GINZA十石」に教えをこおうと考え、飛び込みで当時のオーナー企業を訪問し、その「おにぎり」ビジネスに賭ける情熱と食材への「こだわり」が認められて、店舗とブランドごと会社を譲り受けてスタートすることとなったのである。

葉葺社長は、惣菜商品を充実させたり、商品の陳列を工夫したりするなど、さまざまな苦労を重ねて本店の売上げを伸ばした。さらに、新規出店の機会をつかんで、約一年のあいだに店舗数を四店舗にまで増やした。

現在は、月商一〇〇〇万円を超えるビジネスに成長し、さらに10月には新しいチャレンジとしてイートイン・スペースを含めた五坪を超える大型駅ビル店の出店を控えて東奔西走している。

今後、この「おにぎり」マーケットがより有望視されるに連れて、さらに多くの参入企業が現れてくることは間違いないだろうが、同社の若いパワーがパイオニアとして切り開いた、新しい外食カテゴリーの価値が下がることは決してないだろう。

◆筆者紹介◆

商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画・運営を手がけ、SCの企画業務などを経て商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。

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