この1品が客を呼ぶ:「マイティガル」マトンカレー

2003.07.07 270号 12面

カレー好きと定評のある日本人の間でも、近年親しまれるようになったエスニックカレー。中でも本場ネパールの味を100%再現したカレーが食べられる店は、福岡には数少ない。メニューの中でもそれだけを目当てにやってくる客が少なくないという、比較的珍しいマトンカレーにスポットを当ててみた。

マイティガルとは、ネパール語で「故郷」を意味する。「いらっしゃい」と達者な日本語でにこやかに迎えてくれたのは、店主のクマールさん。ここは、本国のオーナーシェフが腕をふるう家庭料理の店だ。テーブル席の傍らには、ネパールの雑貨やアクセサリーがずらり。アットホームな雰囲気の店内は、初めての人でも、まるで友達の家を訪ねるかのような気分にさせてくれる。

カレーのメニューは、肉カレー、野菜カレー、豆カレーの三種類。肉カレーは、さらにマトン、チキン、キーマ、豚バラ、豚軟骨の五種類から選べる。これらのカレーは、スパイスの種類や使用する素材などベースから作りがすべて異なるという手間のかかったものだ。ネパール料理には欠かせないクミンやコリアンダーといった本国産スパイスは、多いもので一五種類を使用する。中でも、ニンニクとショウガはネパール料理では必須だとか。

夜から楽しめる「ダルバートセット」(一〇〇〇円)や「マイティガルセット」(一五〇〇円)に付くサイドメニューもまたネパールの家庭の味だ。スパイスの効いたポテトサラダ「アルコ・アチャル」、餃子の「モモ」、豆のスープ「ダル」など。食後には「チィヤ(チャイ)」や「モヒ(ラッシー)」が欠かせない。

「現地で普段食べるものと全く同じ料理を味わってほしいので、日本人好みの味にはしていないんですよ。もともとネパール料理は、素材そのものの味を大切にしますから、ブイヨンやコンソメ、着色料は一切使わず、中心となるのはスパイスや豆。スパイスといってもインドと違って香辛料は控えめなので、実際は辛くないんです」

今後は、この店でネパール語教室も行っていきたいと力強く語るクマールさん。

「だれもが気軽にやって来れて、落ち着ける場所。ここをそんな真の“故郷”にしたい」

食や言語を通じた文化発信の試みに期待したい。

「マトンカレー」(六五〇円)。マイティガルで一番人気がある。臭みはほとんどなく、マトン特有の肉のうまみだけがギュッと引き出されたコクのある深い味わいが特徴だ。味の秘密は、ネパール料理に欠かせないさまざまなスパイスを使って、時間をかけて煮込むことにある。

まず、マトンの塊をぶつ切りにして下準備を済ませる。次にその塊を木べらで丁寧に繊維状にしていくのだが、これが一苦労。通常、ネパールで見られるマトンカレーはぶつ切りのまま煮込まれたものが多いが、この一手間がマイティガル流なのだそうだ。

そうして、軟らかくほぐしたマトンを深鍋に入れ、サラダ油で炒めた玉ネギのみじん切りとスパイスを入れて煮込む。この時使われるのは、ニンニク、ショウガ、クミン、コリアンダー、ターメリック、ブラックペッパーといったカレー料理に付き物のごく一般的なスパイスとその他、風味をいっそう引き立てる秘密のスパイス。

とくにピリッとした辛みが特徴のショウガ科のターメリックやセリ科のクミンなどは、ネパールカレー特有の強い芳香を放ち、食欲をそそる。これを焦がさないように火加減をうまく調節しながら、コトコトと最長で三日かけて煮込むこともあるそうだ。

こうして仕上がったマトンカレーは、一日二日のうちに客の口へと運ばれていく。まだまだ日本では珍しいからと一度食べてみたところが、そのまろやかな肉の甘みとスパイスとの程よい調和にひかれ、リピーターになる客も多いという。

◆「マイティガル」=福岡市中央区警固一‐四‐二三‐二、電話092・751・5363、坪数席数=一二坪二〇席、営業時間=午前11時30分~午後3時、6時~10時、水曜定休

◆こだわりの食材 マトン

マトンは二歳以上の羊の肉のこと。マイティガルでは週に一~二回、市内の業者から選りすぐりのマトンをブロックで三キログラム仕入れている。それをそのまま自然解凍させるのが、味を落とさない秘訣とか。

羊肉は、他の食肉と比べて、コレステロールが少なく低脂肪。ビタミン類やカルシウム・鉄分といったミネラル分も豊富に含み、体温保持やエネルギー補給に優れた食肉だ。

体を温める作用が働くので、下痢や腹痛に効果があり、コラーゲンによる美肌作用も。意外と知られていないが、ヘルシーかつ万能な食材なのである。

◆記者席からのコメント

ネパール製の銀色の食器に盛り付けられた出来たてのマトンカレー。さっそく口に運ぶと瞬間、軟らかな食感とともにジューシーな肉汁があふれだす。ネパール料理は、インドと同じくカレーが主体だが、香辛料は少量しか使わないため素材の味が引き立ち、日本人の口にもよく合うようだ。

マイルドでいて風味豊かなマトンの味は、そのままで十分楽しめるが、辛党は予め辛さをリクエストできる。辛みに使用するのは、鷹の爪をすりつぶしたもの。現地のベーシックな味を試した後、好みの辛さに調節するのもおすすめだ。

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