そば・うどん特集:日本の伝統的ファストフード様変わり、多彩なスタイル

2003.12.01 278号 1面

そば・うどん店は古い歴史と伝統をもった食品で、奈良時代に中国から伝播したといわれ、江戸時代に広く普及した。そうめんは、麺を作るのに三日かかるが、即席麺なのでごちそうといえない。しかし、そばやうどんは、家庭で打つと粉だらけになるので、江戸時代から外食というごちそうの部類に入った。伝統的な外食だけに、職人気質が強く保守的な業種であるが、近年のヘルシーブームも手伝って、業界や繁盛店は様変わりしている。 (経営コンサルタント・(有)マネジメントプロセス代表取締役 三浦紀章(中小企業診断士))

◆コンビニの台頭目立つ

近年のそばの国内消費仕向量(国内生産量+輸入量±在庫の増減量)は増加している。平成13年は一三万三〇〇〇t。国内生産量は約二〇%の二万七〇〇〇t(図表1参照)。それに合わせそばの作付面積も増加傾向にはあり、平成14年は三万九三〇〇ヘクタールとなっている(図表2参照)。

しかし、業界内部を探ると意外な事実が浮かび上がる。近年業界で台頭しているのはCVS(コンビニエンスストア)だ。「CVSのシェアは、そば市場で約三〇~四〇%、うどん市場で約九%」というのは業務用卸関係者の話である。

以前のCVSのそばは、水がないところで食する場合でもつゆを飲めるようにと、つゆが極めて薄かったが、近年は、飲料とともに購買するバスケット分析の結果、つゆを辛くしている。つゆのだしは本鰹節のみを使用、口直しにと卵をつけ、そば粉も前日にひいたものを納品してほしいと卸に要求してくる熱の入れよう。また、そばのみでなく、口直しの卵焼きもセットにして提供していたりもする。上手に研究しているといえよう。

◆薄れゆくそば伝統店

平成5年、東京都の組合へ加入しているそば店の数は四〇〇〇軒あったという。これが平成11年には三二〇〇軒にまで減り、今は三〇〇〇軒弱ではないかと予測される。CVSとは逆に業界では伝統的な個店が苦戦している。その要因は何か。

考え方やシステムが他業界に比べ完全に遅れているのが原因といわれる。手打ちそばは三〇分で二〇食打てるか打てないかだ。しかも、激しく体力を消耗する。また、自分で行うつゆづくりも伝統的なかえしは二一日間置く。また、やたらなセットメニューで手間を増やし、ご飯物の提供により食事時間が増加し客回転が悪くなり、メニュー数の増加のみでメニュー削減もできないでいる。

これでは朝から晩まで作業に追われ、新たな発想や研究にいそしむ時間などなく、何が経営のポイントかも分からなくなる。テナントではなく持ち物件で返済も終わっているから日商三万円もあればいいやと思っていてはいないか。情報過多の時代、消費者はTVを黙って見ているだけでも目が肥えてくる。好調な店はよく遊びよく学ぶ。調理場にこもっているだけではなく、外に目を向けるべきである。

新たな発想もなく品質を高めて高単価にするということが伝統店でははやっているが、デフレ経済の中では時代に逆行している。もりそばの場合、つゆ二〇円、そば三〇円という原価で提供できるところもある。単なる高粗利高単価やボリュームを増やしたのみでの高単価では、価値に見合う価格とかけ離れるので非常に危険だ。次代は、職人ではなくプロを求める。

つゆの返しは、江戸時代から戦前にかけては醤油の質が悪く塩分が強かったために、二一日間寝かすことで味の角を取ったのだが、うまみが多く高品質な現在の醤油では二一日間の寝かしだと微生物が発生し、味づくりが台無しになる。今は、生返しで寝かしは三日間ぐらいが最適といわれる。しかし、プレミアムアイテム以外の一般アイテムでは、麺もつゆも業者への仕様書発注で十分といえよう。原価もそんなに変わらないのだから。

また、いつまでもゆで湯をひしゃくですくって捨てていてはいけない。蛇口をつける工夫をメーカーに提案できるくらいにならないと。このようにして、徒弟制度を色濃く残した時代から新たな取り組みにより、環境改善を行い、社員を増加し余裕を作るべきである。朝から晩まで自分一人で調理場に入ってくたびれた結果、研究もできなくなるという悪循環を断ち切るべきである。

◆増加傾向の新規参入組

近年のそば・うどん店の事業所数や従業者数は図表3、図表4から分かるように増加傾向にある。近年の手打ちそば教室のブームで脱サラの独立も多くなっている。当たると大きいが成功率が低いラーメン店と比較し、うどん店より手間のかからないそば店の成功率は一般に高いといわれる。

しかし、長らく修業してきて基本的体力が備わってきている人と比べると、脱サラ組は体力に劣り、一日約二〇食の手打ちが体力の限界となり、数がこなせないという点、開業後の認知率が低く営業成績が伸びるのに時間がかかる点というデメリットがある。この点を克服できればもともとサラリーマン社会でもまれているだけあって、新たな発想を取り入れて成功している方も多い。

また、他産業や他外食産業からの多角化によりそば・うどん業界に参入してくる例も多い。この場合は、兼業者ではなく先任者をつけて行うケースが成功しているが、それだけではなく、そば居酒屋や低価格讃岐うどんの例もあるように新たな取り組みに要因がある場合が多い。

「はなまるうどん」チェーンでは、ひとつのメニューに、一玉の小、二玉入りの中、三玉入りの大と、三種類の麺量を用意しているが、大をオーダーするのではなく、小を二つ頼む客が多く、結果的に客単価を押し上げているという。一般店でも新たなメニューを投入した当初は、客単価・客数ともに上昇する場合が多い。

そばやうどんは、日本古来のファストフードであり、根本的に人を集めるという性質がある。たっぷりとしたお湯に強い火力。家庭ではできない料理であり、今後も期待できる産業である。

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