町で見つけた感動のすごい店:長野県松本市 居酒屋「風林火山」
小泉構造改革がもたらした勝ち組と負け組の格差拡大は、飲食店業界にも顕著に表れている。大型のチェーン居酒屋が1店舗開店すると、小型の個人居酒屋が5店舗閉店すると言われる環境下、大手チェーン店が立ち並ぶ長野県松本市の繁華街で独自のプロモーションを駆使し通行客に懸命にアピールする個人生業店を見かけた。お金をかけずにアイデアと行動力だけで大手チェーンに対抗し生き残りを図る姿は、飲食店業界の格差是正のお手本だ。
長野県第2の都市・松本市の駅前繁華街。大手チェーン居酒屋が華やかなエントランスや立派なメニュー看板で人目を引きつける中、間口3間くらいの薄暗い店頭にテレビのディスプレーだけが光っている店を発見した。お店のおすすめ料理をビデオで繰り返し流しているのである。ふと立ち止まり、しばし画面に見入った。「ポパイソテー」(600円)は、鉄板でホウレンソウを炒めたり、卵を落として目玉焼きにする製造工程をダイジェスト版にした動画と商品名・価格のテロップを交えて紹介している。
プロが作ったものではないので、画面はブレているし、商品名も「ポパイソテ」となったりしている。だが画面には商品の手づくり感とお店の一生懸命な姿勢が出ていて好感度は大だ。動画はこの「ポパイソテー」と「イカのバター焼き」(700円)の2品のみ、他の商品はいずれも静止画像である。
店内は30坪くらいの広さで、カウンター席から入り口の横に設置された薄型テレビの背面が見える。店主にビデオを見て入ったことを伝えると、
「大手チェーン店のように立派なメニュー写真や大きなサンプルケースでおすすめ料理をアピールしたかったが、ウチはお金が無いし間口も狭いので諦めていた。薄型のテレビを見た時、これならうちでも置けると思い窓を改造して設置した。ビデオは昔カメラを使う仕事をした事があるので自分で撮った」と言う。動画は撮影用に作った料理を撮ったのではなく、オーダーがあった料理を作る合間にカメラを持ってきて撮ったそうだ。プロモーションビデオを流すようになって売上はちょっと増えた程度らしいが、近隣に「和民」や「笑笑」など大手のチェーン店がドンドンと増える中、しっかりと売上をキープしているのはすごい事例である。
「あと2年で30周年。いま流している動画は手ブレがあるので、今度はカメラを固定して奇麗に撮りたい」と前向きに語る店主。見た目は高齢だが、仕事に取り組む姿は実に若々しかった。
((株)かいエンタープライズ 代表・谷口正俊)
◆「風林火山」/所在地=長野県松本市中央1─3─1