看板料理に学ぶヒットの秘訣:ナイルレストラン「ムルギーランチ」

2011.09.05 390号 09面
丸ごと1本のもも肉のボリューム感は圧倒的。たっぷりめに添えられる季節の野菜料理が味の変化とヘルシー感を訴求、付加価値を高めている(写真は当紙の模作料理です)

丸ごと1本のもも肉のボリューム感は圧倒的。たっぷりめに添えられる季節の野菜料理が味の変化とヘルシー感を訴求、付加価値を高めている(写真は当紙の模作料理です)

 ●素材の吟味と煮込み技術が人気支える 幅広い客層にマッチする味づくり

 1950年創業のインド料理店の超の字が付く看板商品が「ムルギーランチ」だ。本格インド料理も揃えたうちで、ダントツの人気メニューとなっており、昼時には90%以上のお客がこれを注文するという。鶏もも肉を丸ごと1本、長時間じっくりと煮込んだものに、2~3種類の野菜のザブジ、ターメリックライスを1皿に盛り付けたボリュームも満点の商品だ。

 この商品の魅力は主役のムルギ(鶏肉)に集約される。赤身系のやや小ぶりな地鶏もも肉を使用しており、ポロリと骨がはずれるほど軟らかく煮込まれているのに、食感はしっかりと残り、肉そのものの味もソースに負けずに存在を主張している。この素材の吟味と煮込みの技術こそが、この商品の人気を支える骨格となっているのだ。煮立つか煮立たぬか程度の低温で、おそらくは5~6時間以上煮込んでいるものと思われる。

 一方で、味づくりの面からは、別の工夫が読みとれる。ソース、ザブジ、ターメリックライスのいずれもきわめて食べやすい、クセのない味の設計で、いわゆる本格、本場を強調するための強い個性づけをしていないことだ。スパイスの使い方は、全体的にソフトで、辛味も中庸といってよく、いたずらに尖ったところがない。つまり、本格料理としての装いをまといながらも、中身は、より幅広い嗜好層にマッチングしているわけだ。

 実際、この店の客層はきわめて幅広く、専門店にありがちな偏りがない。このことが長年にわたるスーパーヒットの要因といえる。

 (FSプランニング代表・押野見喜八郎)

 ●印度料理専門店「ナイルレストラン」 東京都中央区銀座4-10-7

 ●プロフィル

 押野見喜八郎(おしのみ・きはちろう) FSプランニング代表。1946年千葉県生まれ。東京ヒルトンホテルを経て外食マーチャンダイザーに転身。多数の外食専門校で活躍するほか、外食企業の商品開発、食品企業の業務用食材開発を手掛けるなど、わが国のメニュー政策指導の第一人者として知られる。「外食新メニュー実用百科」(日本食糧新聞社)など著書多数。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら