ガチで語ろう!ラーメン店主覆面座談会 高齢化・国際化に向けラーメンはどうあるべきか?
「ラーメン市場は今や飽和状態」との見方もある。さらに、少子高齢化社会を向かえて今後、ラーメン人口が減ることも懸念される。その一方で、今やラーメンは世界に誇る日本食としてのステータスを確立しつつあり、海外進出を狙う店も少なくない。なにかと話題の多いラーメン業界の現状分析と未来予想を繁盛店の店主3人に聞いた。(司会=ラーメン新聞編集長・岡安秀一)
◆参加者
・A氏(41歳)
2002年に独立開業。濃厚豚骨醤油ラーメンで名をはせる有名店。そのこだわりは多くの同業者から一目置かれている。店主でありながらラーメンオタクを自称し、時間さえあれば全国のラーメンを食べ歩く。
・B氏(39歳)
日本屈指の大手メーカーから転職。2003年に独立開業。魚介醤油ラーメンの名店として知られる。都内に5店舗を経営。海外からの留学生をアルバイトに集めて修業させ、海外進出の布石にしたいと考えている。
・C氏(45歳)
IT系会社から転職。2000年に独立開業した家系ラーメン店。ラーメン店や居酒屋など10軒を経営。本店は日販300杯前後、月商700万円の繁盛店。地元をこよなく愛する酒好き。カラオケも大得意。
●食べ慣れた“あの味” 年配者が求めるものは
司会 社会は今後、どんどん少子高齢化社会に向かっていくが、その影響については?
A 将来的には考えなくていけないと思うが、実際問題としては、まだ実感は薄い気がする。
B 平日の客層は変わらないが、週末に年配の方が若干増えた感じがする。
C 高齢者向けに、店の味を変えた薄味の“あっさりラーメン”を提供することは考えていない。年配のお客さんを増やすことを狙って店の味がブレることは、本末転倒だと思うから。それに、年配の方が「食べたいラーメン」も、若いときに食べた“あの味”であって、体のことを考えて薄味や脂少なめラーメンが食べたいわけじゃないと思う。思い出の味を求めて食べに来てくださっているのに、あっさり味に変わっていたら、むしろがっかりされると思う。
A 札幌の人は年をとっても味噌ラーメンを食べるし、九州の人は同じように濃厚な豚骨が好きなのでは? むしろ年配になるほど、昔から食べ慣れた味に回帰する傾向があると思う。食生活のほかの部分ではカロリーや塩分を控えめにしても、ラーメンを食べようと思うときには、そんなこと考えないのでは?
C 基本の味を守りながらも、油や麺の量を調整できるカスタマイズ方式で提供すればいいと思うし、うちは当初からそうしている。
店の近くに病院があるが、病院帰りのおじいちゃんが来店してくれたときに、「味が濃かったら薄めますから」と言うと「しょっぱいのが好きなんだよね~」とおっしゃっていた。「年配者=あっさりラーメン好き」ではないと思う。これから店を出そうと思っている人が、高齢者向けのあっさりラーメンをメニューに加えるのはいいと思うが、今ある店が、高齢化社会に対応するために本来の味を変えることには疑問を感じる。
あるいは業務用スープで塩味はあるが塩分は少ないとか、脂のコクはあるが使用している脂分は少ないといった商品を開発すると需要があるかもしれない。
B 味ではなく接客の面では、高齢のお客さんに対する配慮が必要だろう。店のスタッフが車いすのお手伝いをするとか、温かいお茶を出すとか。これから店を出す人は、バリアフリーとまではいかなくても、車いすがスムーズに出入りできるような間口の広さを考慮する必要があると思う。
A 作り手側の高齢化の問題もあるのでは? 20代で店を立ち上げて、今までは自分がうまいと思うラーメンを出せば、それがお客さんに受け入れてもらえたが、60歳になったとき、自分がうまいと思う味を若いお客さんがおいしいと感じてくれるのか。作り手の味覚も年齢とともに変わるだろう。
C 個人店の店主はラーメン好きが高じて、自分の店を持つことになった人が少なくない。そういう人は自分が「うまい!」と思うラーメンを作っているから、年齢が上がるにつれて、好むラーメンの味が変わってくる可能性はあるだろう。
●外国人向けに対応策 味のカスタマイズ必要
司会 お客さんの層が多様化するという意味では年齢層だけでなく、国際化ということもあると思うが。
C 確かに、街中を歩いている外国人が増えているので、ラーメン店に来る外国人も増えるだろう。ただ、現状では、1日に1人いるか、いないか程度だ。
B 2020年の東京オリンピックに向けて、外国人観光客はどんどん増えていくので、当然、外国のお客さんへの対応問題は出てくるだろう。特にイスラム圏のハラールの問題とか、今後、対応が求められてくると思う。イスラム圏の人を本気で迎えようとするなら、専用のスープを仕込む必要があるだろう。新横浜のラーメン博物館には、海外から団体客が来館するので、イスラム圏対応のラーメンを提供しているようだ。今後はそういった店を参考にする必要が出てくるかもしれない。
A 外国のお客さんは少しずつですが増えているが、日本人と味覚が違う気がする。
B 外国人は辛いのはいくら辛くてもいいけど、しょっぱいのが苦手。「醤油なしで」と注文する外国人の方もいる。
C 「醤油なし」では、だしの味だけになる……と戸惑ったことがある。
B 今後、増えていくと予想される外国のお客さんのことを考えると、醤油の量が選べたり、辛いもの志向の味覚に合わせてタバスコ常備など外国人向けのカスタマイズも考えていく必要があるだろう。あと、外国人は食べるのが遅い。ラーメン1杯を1時間くらいかけて食べる人もいる。自動販売機で食券を買う方法も、当然ながらわからないので、外国人客が増えれば、英語の説明文を掲示する必要も出てくるだろう。
C 海外向けのラーメンサイトがあり、外国人観光客を積極的に取り込みたい店は、そういうサイトに広告を出しているようだ。
A 知らないうちに、うちの店が外国人向けのサイトに載って、それを見て来たという外国人がいた。
B これから店を出す人で外国人ウケを考えるなら、内装に趣向を凝らすのも手だと思う。新横浜のラーメン博物館みたいな昭和のノスタルジックな店構えが、外国人にとっての“日本のラーメン屋さん”のイメージなのではないか?
C 外国人を迎えるだけではなく、海外に出て行く店も増えていくと思う。ある店が国内での売上げが伸び悩んだので海外に進出して、しかも国内店のメーンスタッフを海外店に配置したら、その結果、国内店が弱体化したという例がある。国内でもうからないから海外に出て行くというのは本末転倒だと思うし、海外で成功するのも難しいと思う。国内で十分力のある店が海外に出て行く“攻め”の進出はいいと思うが。
A 国内の本店が盤石であること。そこから派生して海外に出店するのはいいが、国内店の経営をないがしろにすると、内も外も弱体化するのではないか。
B 海外は小麦粉の種類が日本と比べると圧倒的に少ないし、海外で本当にいいものが作れるのかという懸念もある。外国人を迎えるにしろ、こちらが出て行くにしろ、課題は少なくないと思う。
●目に見える集客効果 女性スタッフは不可欠
司会 女性のお客さんを取り込むことについては?
A 以前より、1人で来店する女性が増えている。
C 昔は「ラーメン屋は汚い店ほどうまい」と言われていたが、今はそれは通用しない。少なくとも女性には絶対、通用しない。女性客を取り込もうとしたら、味がどうのこうのよりも、まず清潔であることが必須条件だと思う。
B 店のスタッフに1人でも女性がいると、女性のお客さんは入りやすいようだ。女性スタッフがいるのと、いないのとでは店の雰囲気が全然違う。「いらっしゃいませ」のひと声に女性の声が混じるだけでも違う。パッと明るくなる感じ。最初、カップルで来た女性のお客さんが、女性スタッフがいると、次は1人で来てくれたりもする。
C お客さんに対する気遣いや掃除などについても、男性スタッフが全然気付かないことに女性スタッフは気配りできたりする。
A うちの店で開店したばかりのころ、お客さんが全然来なくて、女性スタッフがお客さんに毎回、ひと言声をかけるようにしたら、リピート率が目に見えてよくなった。それくらい女性スタッフの笑顔と気遣いは集客に効果があるのだと思う。
今後、店を繁盛させるためには女性客を配慮したサービスが欠かせないし、そのためにも女性スタッフは重要な要素であると思う。