ラーメン製麺機最前線 品川麺機代表取締役・草柳和宏氏に聞く ラーメン革新を演出した製麺機
品川麺機は、国内では北海道から沖縄県までの納入実績を誇り、さらにアジアはもちろんヨーロッパ、北米、中東、オセアニアにまで販路を拡大している。社長の草柳和宏氏は大学で精密機械科を専攻した機械設計のプロ。父親が戦後間もなく創業した製麺機会社を継ぎ「どうせやるなら、これまでにない製麺機を設計する」ことを目指し、見事、その目標を達成した。草柳氏が機械設計者としての技術を余すところなく発揮して開発したのが、加水量を自在に変えることのできる製麺機。その開発までの経緯とは?
●店主が描くイメージを再現 世界で活躍するヌードルマシン
–小型製麺機の名機「マイティー50」誕生のきっかけは?
草柳 大学卒業後10年くらい、特殊機械の設計に携わっていたんですね。金属メーカーの研究者が要望する装置を、試作を繰り返しながら設計して完成させるという仕事です。毎回、作る機械が違っていて、創意工夫とオリジナリティーが要求される仕事でした。
ところが父親がやっている製麺機会社に入ったら、当時、どこのメーカーも同じような製麺機を作っている。これじゃ、設計者としての技術なんか必要ないし、うちみたいな小さな会社は販売力がないから大手メーカーにはかなわないと思いましたね。それで、どこも作っていない製麺機を作ろうと設計者魂に火がついたというわけです。
–開発のポイントは?
草柳 当時の製麺機は使用できる水の量は粉の三十数%程度まで。それ以上水が多くなると麺帯がベトベトになって、使いものにならない。手打ちは水加減が自由自在だから、低加水から多加水まで自分の打ちたい麺が作れるのに、機械打ちだと加水量に限界がある。それと中華麺は強力粉で作るものと思われているけど、それも水の量の問題。グルテンを多く含む強力粉は少ない水でも粘りが出るので製麺できますが、グルテンが少ない薄力粉をまとめるには水の量を増やす必要があります。それは機械打ちではできないんですね。薄力粉でも粘りがでるまで加水して、グルテンを100%有効にしたら、強力粉とはまた違った中華麺が打てるはずなんです。
そこで、小麦粉が吸水可能な飽和状態まで加水率を上げられる製麺機を作ろうと思ったわけです。
–加水率を上げられるメリットは?
草柳 多加水麺はゆで時間が少なくて済むので、ゆで出しで提供できる。麺の表面は水分を吸って柔らかいけどコシが残っています。一方、低加水麺はスープを吸いやすく麺にスープの味が付きますが、その分伸びやすい。博多ラーメンは加水率二十数%の低加水麺だけど豚骨スープには合う。要は多加水、低加水のどちらがいいというのではなく、水加減を自在に調整できることで、自分が作りたい麺を機械で作れるということが、うちの製麺機の最大の強みです。
–販売実績は?
草柳 全世界で3000台くらいでしょうか。海外での最初のオーダーは1983年の米国。2000年以降、海外受注が急速に伸びてきています。寿司ブームがひと段落して、日本のヌードル文化が注目を集めるようになったということですね。
–営業マンがいないことでも有名ですね?
草柳 当初、製品カタログを100軒の店に配りましたが、売れたのはたったの1台だけ。それ以来、営業活動は一切していません。その代わり雑誌に広告を載せましたね。営業マンを雇っても都内近郊を回れるくらいですが、雑誌広告なら地球上を回る。営業マンの人件費分くらいの広告費をかけましたね。あとホームページも早くから採用しています。ホームページに製麺機の使い方の動画をアップしているので、初めて使う人でも、外国人でも使い方が分かるようになっています。
–海外で好まれる麺のタイプは?
草柳 外国人は濃い味を好むので、細麺の豚骨醤油ラーメンが好まれる傾向があると思います。今後、有望になるのがつけ麺。外国人は熱いものが苦手だから、つけ麺が食べやすいんです。海外でつけ麺ブームや起こると思いますね。
–今後の展望は?
草柳 つけ麺やスープのない油そばの登場で麺に対する要求水準や注目度はどんどん高まってきています。また、今の若いラーメン店主は麺に卵白、タピオカ、野菜ピュレなどいろんな添加物を混ぜて、これまでにない新しい発想の麺やオリジナリティーのある麺を作りたいと考えます。製麺機というハードを売るだけではなく、店主がイメージする麺を実現できる「ソフト=レシピ」を提供できるかが、製麺機メーカーの成否を決めると思っています。当社では、これまでの経験で培ったレシピが1000近くあります。作りたい麺のイメージを言ってもらえれば、イメージ通りの麺が作れます。ラーメン店主100人いれば、イメージする麺は100通り。それらすべてに対応できるソフトこそが、これからの製麺機メーカーの強みになるのだと思います。
◆プロフィール
くさやなぎ・かずひろ=1944年東京都向島生まれ。中央大学理工学部精密機械科卒業後、機械式計算機の大手メーカーに就職するが、経営方針に反発してわずか2ヵ月で退職。その後、機械設計会社に就職し、10年間、大型特殊機械の設計に携わる。戦後間もなく父親が立ち上げた製麺機会社に1975年、31歳で入社。1983年に父親から社長を受け継ぎ、代表取締役に就任。「畳半畳に置けます」をキャッチフレーズに、他社に先駆けてコンパクト型製麺機を開発。さらに1988年、自由自在に加水量を調整できる「マイティー50」を開発。品川麺機の製品は国内47都道府県に浸透し、さらに海外でも20ヵ国以上にユーザーをもつ。
●企業メモ
株式会社品川麺機 所在地=東京都品川区中延4-10-19/創業=1950年/資本金=1000万円/従業員数=10人/事業内容=ラーメン、そば、うどん、パスタ店で使用する製麺機の製造販売。麺を扱う店舗へのコンサルタント、各麺に関するアドバイスなど
●「マイティー50」 加水量の調整がオールマイティー 小型頑丈、個人店から厚い信頼
低加水量(粉に対して28%程度の加水量)から手打ち風多加水量(粉に対して50%加水量)までの水加減が自由自在で、手軽に多加水が設定できる。
従来のロール式製麺機と操作法が変わらず、職人的な勘や熟練は不要。
「マイティー50プラス」は、マイティー50に据え置き型の25kgの大容量ミキサーを添付したもので、一度に大量の製麺が可能。
ミキサーは別置きなのでミキシングが終了したら移動させて、次の工程の作業スペースを確保できる。