囲炉裏囲んで「あそびと料理の達人・かたりべ」開店

1999.11.01 191号 1面

「つぼ八」「八百八町」と、現在の居酒屋チェーンの基本コンセプトとなる繁盛店を次々と生み出してきた石井誠二氏((株)エス・アンド・ワイ石井代表)が、一〇年間の沈黙を破り、新たなコンセプトを引っさげ、このほど新店をオープンした。業界に一石を投じるキーワードのひとつは「ノンフライ」。さらに「人」に特化したサービスで、二一世紀の居酒屋像を体現してみせる。

入り口のバーカウンターの奥に、囲炉裏を囲む客席が大小五卓。客は囲炉裏の炭火で好みの素材を焼いて楽しむ。メニューは野菜も肉も基本的には手を加えない。ピーマンも丸ごとという豪快さだ。

「あそびと料理の達人・かたりべ」が、二一世紀への新たなテーマとして取り組んだのは、油で揚げたメニューを一切出さないという「ノンフライ」。

健康ブームのさなか、外食産業は勢い素材の差別化に躍起だ。「有機栽培」や「非遺伝子組み換え」という文字がメニューや看板に踊る。

しかし、消費者の健康を守ることが、「特別な素材を使うこととは限らない」と石井社長は言う。

「すでに糖分や脂質をたっぷり含んだ素材を、わざわざ油で揚げて調理することが身体にいいことなのか」と調理法に目を向け、思い切って店からフライヤーを排除した。

外食企業だからこそ食べ方の提案をしようという、業界に一石投じる試みだ。

また囲炉裏を囲むことは、「居酒屋はコミュニケーションの場」という石井社長の演出でもある。家族、友人はもとより、隣り合わせた客同士が会話を弾ませるきっかけになる。

4月のオープンから半年。地域密着を標榜し、地域住民や女性に役立つサービスを実践してきた。

10月からは、さらに地域との接点を広げようと、月二回の予定で「かたりべの会」を始めた。毎回文化や歴史をテーマに講師を招く。はじめは石井社長の友人に登壇してもらうが、ゆくゆくは地域に必ずいる語り部を掘り起こして出てもらう。地域の文化を創造しながら、店のファンづくりにつなげるのが狙いだ。

女性客の反響が多く、五〇〇〇円という会費(飲食費込み)にもかかわらず、初回は三〇人近い申し込みがあったという。

徹底した地域深耕戦略が奏功し、九割以上のリピーターに支えられている。

「人は仲間を求め、自分が主役になれるなじみの店を欲しがっている」と、石井社長は、既存の飲食店に飽き足らなくなった現代人の心理を分析する。

「かたりべ」は、そんな現代人の心に直接語りかける次世代の居酒屋として、着実にファンを増やしていきそうだ。

◆「あそびと料理の達人・かたりべ」=東京都大田区南雪谷二‐二‐一三、Tel03・3748・3300、フリーダイヤル0120・807078、営業時間午後4時~午前4時(年中無休)

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