2000年勝ち組・負け組を総括 業界地図塗り替える3つの潮流

2000.12.04 217号 2面

世紀末を迎えて、わが国のみならず、世界中でアッと驚くような変化や事件の多発した二〇〇〇年であったが、この変革の年を迎えて、外食の業界でも、その変化は目覚ましいものがあったと言えるだろう。この二〇〇〇年という年の「勝ち組・負け組」の構造を考えるために、欠かすことのできない三つのキーワードが「IPO(株式の新規公開)」「マイブーム(グルメ)」「インターネット」である。このキーワードに沿って、二〇〇〇年の外食業界を総括してみることにしよう。

◆株式公開

まず、企業としての「勝ち組・負け組」を語る上で欠かせないのが、金融市場の変化によってベンチャー企業が短期間で株式公開の可能性を得たという事実だ。

外食元年と呼ばれた一九七〇年から三〇年間、業界をリードし続けてきた大手外食チェーン企業と、ここ一〇年ばかりの間に、急速に業容を拡大してきた新興チェーン企業とが、がっぷりと四つに組んでぶつかり合った年が、この二〇〇〇年という区切りの年であったように思われるが、実は一九九七年ごろから、表1に掲げたような新興チェーンは次々と株式の公開を行い、ファミリーレストラン各社をはじめとする既存大手の業績悪化が取り沙汰される中で、急激に業容を拡大してきたのである。

また、社会的な背景を見ると、日本の産業を根底から支えている製造業には、すでに新規参入の余地が非常に少なく、また、金融・建設・大手流通などといった、これまでわが国の屋台骨を支えてきたはずの業界は、軒並み構造的な不況や不祥事などによって自ら崩れ去ってしまった。

さらに、これからのわが国を支えてくれるはずだった情報通信(いわゆる森首相言うところのIT産業)もまた、米国の例を見るまでもなく、その大部分が砂上の楼閣であったことが露顕し、ほんの短期間のバブルを経て、早々と表舞台から姿を消してしまった今、わが国のベンチャー産業を実質的に支えているのは「外食産業」であると言っても決して過言ではない状況が生み出されつつあるのである。

これは、外食業界に物流チャネルを持つ大手商社や食品メーカーなど、これまでは、既存の外食大手企業を中心にサポートを行ってきた企業群が、個人店や中小FC本部などを含むベンチャー的飲食店の囲い込みを目的とした新規事業を次々に立ち上げはじめていることからも理解できる。

こうした広い意味での投資マネーの流入によって、二〇〇〇年の外食業界地図は大幅に塗り替えられた。しかし、これはまた、ある意味でこれまでぬるま湯的であった業界の再編を伴う、壮絶な戦いの始まりといえるのかも知れない。

◆マイブーム

全体として見れば、こうした状況は、既存チェーン業態の衰退、そして個人店や標準化されない多店舗業態の繁栄といったかたちに見えるかも知れない。しかし、問題はそういった単純な構造ではなく、その背景には消費傾向の変化という大きな流れが存在する。

マーケットの動向を見るには、常にお客の側からの視点を失ってはいけない。二〇〇〇年の外食市場が大きく変化したのは、客が変わったからである。

バブル崩壊時に生まれた子供たちも、すでに小学校低学年。長らく続いた景気低迷の中で、消費者は「身近なレジャー」としての外食を、もう一度見直しはじめた。しかし、そこにあったのは、画一化したサービスと商品で硬直化した大手チェーンと、料理人ブームの中で、かたちだけの高単価な料理を慇懃(いんぎん)なサービスで提供する多くの洋食レストランばかりだったのである。

そのとき消費者が求めたのは、海外から「かたち」や「雰囲気」だけを借りてきた「ニセモノ」ではない「本物の飲食体験」と、これまで忘れ去られていた「日本本来の食文化」の見直しであった。

料理の分野別、つまり業種として見たときの和食の隆盛と洋食の苦戦にも同様の背景がある。

高度成長期以後(一九七〇年以降)に生まれ、バブル期にさまざまな外食体験を体現した世代にとって、洋食はすでにあこがれの対象ではなくなっている。長い間、わが国の外食業界で「勝ち組」であったファミリーレストラン(FR)は、三〇年にわたって「日本の洋食」のレベルを底上げしてきた。「より低価格で、より良質の料理を提供すること」を目指して競い合ってきたFRは、「日本の洋食」のスタンダードをつくり上げたと言っても過言ではない。

しかし気が付けば、その「スタンダード」とは、多くの人々にとっての「最低基準」という位置づけに陥ってしまった。街を行く若者にFRについて聞いてみればよく分かる。かつて、週末に家族がそろってさっそうと出かけていった「ファミリーレストラン」は、いま外食分野では、おそらく最低基準(とりあえず~、ほかにないから~)の選択肢であるはずだ。

しかし、これは決してFRのレベルが下がったということではない。FRは過去三〇年間、調理法や食材の調達、物流などの面で大きく進歩した。しかし、それよりも客の側の情報と飲食体験のレベルが大きく上回ってしまったのだ。

さらに、いかに優れた料理人であれ、西洋料理はしょせん「借り物」の器である。それにひきかえ、街場の無名の料理店であっても、和食には、あくまでも日本独自の伝統を引き継いだオリジナリティーが存在する。

つまり、二〇〇〇年の外食消費トレンドを語るキーワードのひとつは「マイブーム・グルメ」であるといえる。

「マイブーム」とは、「自分だけで秘かにブームになっている事柄」といった意味の流行語だが、飲食店選びの基準も同様に、これまでのような情報誌などの受け売りによる評価ではなく「私だけが知っている店、私が選んだ店」という基準が非常に重要な要素を占めるようになってきているのである。

表2のような二〇〇〇年の飲食業界の成功事例を眺めてみれば、このような状況は、すべて、こうした消費者の選択基準の変化に伴った、同じ構造の中で生み出されたものであるということが理解できるだろう。

◆インターネット

そして、二〇〇〇年を語るときに忘れてはならないのがインターネットの活用の問題である。

小売店の存在意義を根底から揺るがすかに思われたEC(電子商取引)と呼ばれるオンライン上の販売形態は、現実には、むしろ逆であることが分かってきているが、それとは裏腹に、インターネット本来の機能である「情報ネットワーク」としての機能が、飲食店の情報流通を飛躍的に進歩させつつある。

飲食店舗の情報のみならず、食材の情報や調理法など、今まで業界内の人間か一部の情報通しか知り得なかった「食」の情報が、インターネットの出現によってだれでも簡単に入手できるようになった。

バブルという偉大な「情報贅沢=情報の質」の時代を過ぎて、インターネットという圧倒的な「情報過多=情報の量」の時代を生きる現代の日本人は、もうすでに、企業側から一方的に与えられる「食」には満足できない状態にあるのだ。

表3に掲載したとおり、二〇〇〇年はパソコンの普及と携帯電話によるインターネットサービス「iモード」によって、わが国のインターネットが大きく開花した年であるといえる。

この「iモード」の普及によって、今やインターネットで好みの飲食店情報を検索するということは当たり前の時代に突入した。パソコンでの客席予約やデリバリーサービスの注文も日増しに増えている。

店舗と生産地を結ぶBtoB(企業間取引き)のネットワークを含めて、インターネットを使いこなすことは、二一世紀の飲食店経営にとって必須であると言わざるを得ないだろう。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら