トップインタビュー:FSプランニング代表・押野見喜八郎氏
不況に強いといわれた飲食店も、長い構造不況、消費不振で、ここ何年か苦戦を強いられている。既存店の落ち込みはもとより、新規出店の閉店までのスピードもこれまでになく早い。しかし外食企業の指導を手がける押野見喜八郎氏は「衰退しているといっても一二八兆円の巨大市場で勢いよく成長している店もある」と断言する。新しい世紀に向けて外食店のあり方、展望を聞いた。
‐‐今年の外食市場の予想は。
押野見 外食市場全体は停滞気味で今年も伸びは期待できない。景気がプラスに転じれば後半から上向くかもしれないが…。しかし決して危機的状況ではない。いま外食業界は大きな転換点にあるということだ。
‐‐具体的に言うと。
押野見 既存の業態が年数的にも世代交代・衰退の時期に入ったことがひとつ。かつて外食のトップを走り繁栄を極めたファミレスも、三〇年を経て金属疲労はなはだしい。これに輪をかけるのが客層の変化。外食をリードしてきた団塊の世代がニューシルバー世代となり、既存の外食からどんどん離れている。店の陳腐化とコア客層の卒業が重なり、外食産業の低下を招いている。
‐‐代わりに台頭しているのは。
押野見 元気なのが新しい形態の飲食店だ。ライト感覚の居酒屋やカフェ、新しい食体験ができる無国籍料理店などがそれ。またテーマパーク的な空間の面白さを提供したり、価格訴求に徹するなど、その店ならではの価値観をアピールするところは伸びている。
総じてこれらの店が取り込んでいるのが人口のパイとして大きい団塊ジュニアと女性客だ。
‐‐つまり新しい客層。
押野見 ところでこの客層は一見だましやすそうだが、実は客としては手ごわい。
いま二〇代後半~三〇歳前後の団塊ジュニアは「休日には家族で外食」で育った世代。外食に慣れきっていて、既存の外食店には刺激も面白みも感じない。ところが外食というのは本来「面白く、楽しいもの」。だからこそお金を払って食べる価値があるわけで、団塊ジュニア世代に「面白い」と思わせる魅力、他店にはないプラスアルファが求められるゆえんである。
女性の場合は社会進出とともに外食の機会が格段に増えて、店を選ぶ際の発言力も強くなった。女性は日常、食材に接しているだけに原価計算に長けている。「この内容(食材、手のかけかた)でこの値段なの?」と判断されたらそれで終わり。個人差のある「味が好みかどうか」以上に厳しいマイナス要因になる。見栄えだけのごまかしはきかないことを肝に銘じるべきだ。
‐‐客のサイフのひも自体もきつくなっているが。
押野見 これからは低価格がポピュラープライス(標準)になる。仏のカルフールの日本進出や、衣料のユニクロなどの健闘で、客は「一〇〇〇円の価値」を見直しはじめた。カルフールで一〇〇〇円出せば鶏肉が一・五買える。日本の量販店の価格は「高い」ことがバレてしまったわけだ。
‐‐他業種で価格破壊が進んでしまった。
押野見 だから外食もこれまで通りの内容と価格では「高い」と思われても仕方ない。節約の対象になりやすい外食ゆえに、金を払わせる工夫が必要だ。「おいしい」のは当たり前。そこにどれだけの充実感を味わえるか。ベースであるメニュー構成は最重要の検討項目だろう。
(この項、次号に続く)
◇プロフィル
◆おしのみ・きはちろう=FSプランニング代表。外食企業、食品メーカーの経営・商品開発コンサルタントとして活躍中。専門の商品政策やメニュー開発指導では第一人者としての定評がある。『外食新メニュー実用百科』(日本食糧新聞社)、『ヒットメニュー全科』(商業界)、『喫茶店経営ハンドブック』(柴田書店)などの著書も多数。