うまいぞ!地の野菜(30)滋賀県現地ルポおもしろ野菜発見「万木かぶ」

2001.03.05 223号 13面

「昔から嫁の味として伝えられてきたかぶ漬けを商品化して以来、贈答品として大人気。おかげで集落の奥さんたちは年末には休む暇もないくらい忙しい。でもみんな張り切って漬け物作りをしていますよ」とうれしそうに語る前川澄男さん(65)。万木(ゆるぎ)かぶ漬け「三尾里加工グループ」二三人の世話役を務める。

三尾里集落は、琵琶湖の西、安曇川町の中心部にある万木かぶの発祥地。集落では四〇〇年来、各家庭で栽培したカブを冬季の保存食としてぬか漬け加工していた。

昭和62年、一村一品運動が言われたころ、三尾里地区でも村の活性化に何かと模索中、万木かぶ漬けに着目。農閑期の遊休地活用、高齢者、主婦を動員しての漬け物加工は、共同で田起こし機械を買い付けたこの時期、活性化と同時に返済金充当にもなる有効事業として注目された。

まずは消費者の反響をつかもうと、安曇川町の友好提携都市・大阪府守口市の消費生活グループ三〇人を招き、漬け物講習会を開く。翌年、漬け上がったものを送付してみると、結果はなかなかの好評。自信をつけて本格的栽培を開始する。

万木かぶは土壌により味、色、歯触りが微妙に違う。そこでグループがほ場を選定して借用地とし、地主は早生品種の水稲を植え付け、後作に万木かぶを栽培する。また連作障害を避けるため、毎年ほ場を変えたり、本来のカブの品種を保つため優性選抜栽培もする。

3月から4月に開花したカブは5月に種をつけ、採種後乾燥させ、8月末~9月20日ころまでにまく。

収穫は11月10日ごろから年末まで。順次天日干ししてはぬか漬けにし、一ヵ月もすれば食べごろとなる。

「贈答品として守口市の人をはじめ、会社関係、飲食店などからの注文に応じきれないくらい」と奥さんの美智子さんはニッコリ。

現在の販売量四〇t。価格も当初三キログラム樽が九〇〇円だったものが一二〇〇円、一八〇〇円に上がり、現在では二一〇〇円を維持するようになったという。それでも市価の三分の一である。

加工業者が一部の生産者から買い上げ、一個の売価二〇〇円をつけているところもあるが、「われわれが丹精込めて作った漬け物は、食べてみてもらえばおいしさがわかる」とグループ全員の自信作だ。

年を越すと毎日、高島時雨といわれるこの地方独特の不安定な天気が続き、天日干しには向かない。そこで生まれたのが五年前商品化した甘酢漬け。天日干しをする必要はなく、サラダ感覚で食べられるため、従来の購買層に新しく若者層も取り込むことに成功。今ではぬか漬けと甘酢漬けの比率は三対二に。

「当初は行政からの補助金を五〇~六〇%受けていたが、六三年を最後に自力で運営しています」と鼻高々の前川さん。

美智子さんをはじめ主婦二三人のスタッフが、家事をこなしながら畑での収穫、工場での漬け込みをテキパキこなしていく気迫に押され気味。

一村一品運動に端を発した万木かぶの商品化。今では集落住民を大きく取り込んだ事業に発展、今後、どう新たな販売策を打ち出すか期待したい。

■生産・販売者=三尾里加工グループ(滋賀県高島郡安曇川町三尾里五九二、0740・32・4822)

■価格=三キログラム樽二一〇〇円、四キログラム二七〇〇円(甘酢漬けは各二七〇〇円、三五〇〇円)。ゆうパックで全国直販。

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