榊真一郎のトレンドピックアップ:元気な韓国B級グルメ
今、世界で元気のある都市の条件といえば、「リトル・ソウル」じゃないかと思う。韓国語のあの高いテンションに代表されるように、世界で一番勤勉に働き、世界で一番貪欲に食べる。そんな韓国人が住む価値を見つけた街が成長しないはずがない。二〇世紀のチャイナタウンの役割をコリアンタウンが担う二一世紀だとすれば、東京はまさに世界的に勢いのある街の一つじゃないかと思う。
新宿・職安通り沿いは、「韓国料理店や物産店が多くある街」を超えて、「韓国人が東京に作ったソウルという出島」のようになっている。いいものです。まるでロサンゼルスのロンバート通りみたいないかがわしさと、熱にうなされるような興奮のある街。
韓国人「も」いる街ではなく、韓国人「が」いる街になったことの証が、ジャンクフーズ。つまり、韓国のB級グルメの店が続々できはじめていること。日本人向けでなく、日本を訪れる韓国人を相手にするのでもなく、日本に住む韓国人が毎日必要とするものを提供する店。例えば、ごま油でペカペカ光るプルコギ海苔巻の専門店であったり、辛ラーメンの店であったり、あるいはトッポッキの屋台であったり、まさに「わたしの家からタクシー・ワンメーターの海外旅行」の気分の街です。
ドン・キホーテ職安通り店の周辺は、極めてディープなリトル・ソウルで、なかでも「ナランハウス」(東京都新宿区、電話03・32000・3238)という店は、ドン・キホーテの真正面の雑居ビルの地下にひっそりとあるインターネットカフェの食堂部だけれども、ここの「チゲ鍋」はうまいです。容赦なく辛くて、容赦なくうまい。
歌舞伎町の中にあるバッティングセンター側の「双子のり巻き」(東京都新宿区、電話03・3203・9996)という韓国屋台レストラン。屋台のくせに、ほとんどの料理が一〇〇〇円という歌舞伎町価格なのがしゃくに障るけれど、ここの「ラーポッキ」というラーメン、食べてご覧なさい。目が覚めるから。
韓国餅のトッポッキとラーメンを、チゲ風の激辛スープで煮込んだものだが、このような麺料理は日本のどこを探しても無いでしょう。どの部分が日本のほかに無いかというと、それは麺の部分。
この料理には少なくとも三種類の麺が混ざってる。一つはインスタントラーメンの乾麺。この部分が一番多い。「家庭の夜食じゃあるまいし、わざわざ食べに来るお客様から金を取ってまで何でインスタントラーメンを」とかたくなに考えるのは日本人ぐらいで、豪快にスープの中に乾いたままの麺を放り込む。これがうまい。なぜかというと、麺が乾燥させられる時に開いた無数の空気穴がスープを吸ってうまくなるから。
これは最近、ウイークエンドシェフ榊真一郎が自宅でチゲ鍋ディナーをする際、応用している。具が残り少なくなったチゲ鍋に、札幌ラーメンの袋麺をそのまま入れて煮込む。適当に見計らって卵を流して、ネギをパラッとちらせば最高にうまい。スープは絶対、クノールのレトルトのチゲ鍋の素に限ります。侮れないおいしさですから。
これ以外に韓国うどん。ちょうど冷麺とうどんの中間のような歯ごたえのちょっと透き通った麺と、そうめんが入っているのが特徴で、実は私、この料理のこの部分が最初はちょっと苦手だった。丼持ってはしでぐるぐるっとかき混ぜると、底の方から比重の違ういろんな麺が浮き上がってきては沈んでいく。その様子が流し台の三角コーナーの掃除を連想させる、ちょっと残飯じみた貧乏臭さが少し嫌だった。
ところが、食べてみなさい。びっくりするから。ふやけた乾麺のしっとりした食感と同じ麺なのに、その正反対の弾力があって、つるつるしたうどんの対比が、口の中で非常に面白い。
しかし、この二つだけだと、あまりに違う食感に戸惑う。一つの料理としては統一感が感じられなくなる。ところがたまに口の中に入ってくるそうめんが良い。この頼りなさが「ホッとした安らぎ」をもたらす。癒し系麺っていえば今風? やみつきになります。
日本のB級グルメでいえば、さしずめ「ソバ飯」のような料理。複数の炭水化物加工品の異なる食感が醸し出す、イレギュラーな感触を楽しむ料理。そういえばイタリア料理でも異なる形のショートパスタをあえて選んで一つの鍋に放り込む煮込み料理があったりする。
そして東南アジアの今一番の人気といえば、細ビーフンと平打ち麺を組み合わせたスープヌードルだという。
「予想できるおいしさなんて、つまらない」とでもいうがごとく、新世紀の挑戦的な料理の話でありました。
((株)OGMコンサルティング常務取締役)