飲食店成功の知恵(52)開店編 失敗しやすいポイント(2)

1994.10.03 61号 8面

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最大の原因は“世間知らず”

昔は、三代続けばそのお店は長続きする、といった。二代目は初代(父)の創業の苦労を目のあたりにしていてよく知っている。たいていはごく若いうちから、家業を手伝っているものだからだ。ところが、三代目はそういう苦労を知らない。また知る機会も少ない。初代にとってはかわいい孫だから、二代目に対してのように厳しくはなれない。二代目も、自分は苦労したからとどうしても甘くなる。それでも三代目がしっかりしていれば、これはもう大丈夫、心配ないという意味だ。

しかし、時代が変わったというのか、いまは三代目ではなく、二代目で経営が破綻してしまうお店が少なくない。本来なら、二代目オーナーは独立開業組に比べてはるかに有利なはずなのにである。独立開業組は、お店を持つために借金までして投資をし、自分の力だけでお店の知名度を上げていかなければならない。しかし、二代目にはお店も知名度もすでにある。それにもかかわらず失敗する。

結局、いまの二代目は昔の三代目ということなのだと思う。世の中の風潮とか教育の問題などについてまでモノをいう気はないが、二代目オーナーの失敗の最大の原因が「世間知らず」だということは確かである。

この「世間知らず」は、大きく二つのパターンに分けることができる。

第一のパターンは、父親のやり方をそっくり引き継いでしまうというケースだ。そして、この点においては昔の二代目に似ているともいえる。ところが、ここが経営のむずかしいところで、昔とは時代が違うのである。父親のやり方ですら、すでに時代遅れになってしまっている。これでは、お客のニーズの変化の激しいいまの時代にはとてもついていけない。もちろん、古いままのことに価値がある一部の老舗の場合は別である。しかし、そういう老舗でも最近は「このままで本当にいいのか」という疑問を持つ後継者が増えてきて、積極的に革新を進めているケースも目立ってきている。ましてや、一般の小規模店が相も変わらずでは、過当競争のレースから脱落していくのは不思議なことでも何でもない。二代目本人としても、仕事に面白みがないはずだ。将来に夢を持てなければ、ビジネスは絶対にうまくいかない。

〓〓〓      〓〓〓“他人のメシ”食って成長を

第二のパターンは、いわゆるお坊ちゃん育ちの勇み足である。親としては、せっかく繁盛しているのだから、ぜひとも息子に継がせたい。そうすれば、余計な苦労をさせることもないだろう、と考えるのだろうが、たいていはそこで、大きな間違いを犯している。それは、これから経営していくのは自分ではない、ということだ。代替わりするのだから、そんなことは当たり前だと思っているのだろうが、息子かわいさのあまり、自分がさんざん苦労させられた飲食業の怖さを忘れてしまうのである。

親がそうだから、息子は輪をかけて甘い。飲食店経営に夢を持つのは結構なことなのだが、地に足がついていない。よくあるケースは、流行を追いかけて全面改装し、メニュー構成までそっくり入れ替えてしまう、というケースだ。それが本当に時代に合ったしっかりしたお店であればいいのだが、悲しいかな、二代目というだけで素人も同然のため、内容が伴わない。これでは新しいお客をつかむことなどできないし、これまでのお客からも見捨てられてしまう。おまけに、親の信用で借金して改装したものだから、本当の返済能力はない。こういう悲劇は、いやというほど見てきたが、もうおしまいにしてほしい。

結局、保守に凝り固まってしまうのも、極端に走ってしまうのも、世間を知らないからなのだ。そういう失敗をしないためには「他人のメシ」を食って成長するしかないだろう。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

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