食の視点 新しい風が吹く(その5)低価格路線はだれのもの

1994.10.17 62号 18面

▽ふつうの値段△

日経レストラン「外食50チェーンの評価・イメージ調査」(九四年4月6日号)によれば、リピート願望は「おいしさ」や「サービス」に左右されて、決して「内容の割に安いこと」ではないのだそうだ。では、今の低価格志向レストランの人気の秘密は、どこにあるのだろうか。

バブリーな時代にも、九州で気を吐く、ジョイフルがあった。都市圏で躍進する大手チェーンに比べて、安いことが売りのファミリーレストラン(FR)だ。フルメニュー、フルサービスで、ガストのようなサービスの削減はしていない。九州という地方だからこそ実現できるのだと、バブルの時代には言われたものだ。それが、今では低価格路線を取るFRのすべてがジョイフルを意識している。

ジョイフルはというと、ガストのような「後発の」低価格FRなど問題ではない、むしろこわいのはコンビニや弁当店だと広言してはばからない。外食業売上高ランキングで一二一位、売上高一〇〇億円ほどの、いわばすかいらーくやロイヤルホストの足下にも及ばぬような規模のチェーンのこの鼻息の荒さは、いったいどこからくるのか。

▽九州を制覇△

大分に本社を置き、福岡証券取引所に上場し、三〇〇店を目標(九三年末現在七九店)とするジョイフルの主力は、ハンバーグとステーキ。すかいらーくが、低価格を模索している時に打ち出した商品が三八〇円ハンバーグセットだったことを考えると、その時ジョイフルを意識していたことがよく分かる。

実際、ガストのモデルはジョイフルだと言われている。しかし、このジョイフルの強さは、今をときめくガストのお手本となってから評価されたのではない。バブルの時代、好立地がノドから手の出るほど欲しがった大手ナショナルチェーンが、ジョイフルのテリトリーへの出店には慎重になったというくらいなのだ。九州では、とにかく強い。とにかくよく知られている。

ジョイフルのメニューの主力は、前述のようにハンバーグとステーキというように、FRであっても、客単価の低いことから、適度に絞り込まれていることが特徴だ。フルメニューとは言え、質を落とさず、サービスを省略せずにやるなら、メニューのある程度の絞り込みはやっておかなければならない。びっくりドンキーやサイゼリヤのように、最初から絞り込むだけ絞り込んだ専門店的メニューを狙わないのなら。

▽さらにお安く△

ジョイフルの特徴は、創業から一貫して低価格で、ハンバーグとステーキを中心としたメニュー構成を続けたこと。低い価格を客数の多さでカバーするのだ。そして、それが九州の人々に受けた。しかも、どんなに大きくなっても、九州から出ていかない。そして、東京から来る大手に戦いを挑んでいる。まさしく、リージョナルチェーンの典型のようなものだ。

その上、昨今の低価格志向に応えて、さらに価格を下げるつもりだという。そして、言葉通り、ガストより二〇円安い三六〇円のハンバーグを提供している。さらに、その他のメニューも平均で一割方は値下げしている。そして、これからもガストの横にも店を出しても決して負けないと豪語する。

では、ジョイフルは何をライバルとして、顧客にアピールしてゆこうとしているのか。それは、コンビニや持ち帰り弁当店だ。これだけ経済の冷え込みが長引いている中、中食市場の品揃え、価格の安さに加えて、店舗数の多さ、立地の良さ、店舗の設備投資の低さなどは、確かに低価格レストランの前に大きく立ちはだかるものとなるだろう。それをしっかりととらえているからこそ、“さらに安く”の姿勢を貫くことになるのだろう。

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