’94外食産業業種・業態別展望 天丼=低価格にボリューム感、490円の売上高が5割

1994.01.17 44号 8面

「天丼」は牛丼と並んで根強い人気のある丼商品だ。ごはんに揚げた魚介類や野菜類をのせ、甘味のある醤油たれをかけただけの単純なものだが、値段も手ごろでボリューム感もあり、しかもチェーン店であるなら瞬時に注文のメニューが出てくるので、多忙なサラリーマンなどにとっては時間の節約にもなり、利便性の高い商品といえる。

しかし、単純な商品であるだけに、コメ、具ともに質の高さが求められるほか、おいしさがたれに集約されるので、独自のたれの開発も重要なポイントだ。

老舗の丼物の店は具を揚げる油や油温などにもこだわって、この点がすべてクリアされているわけだが、当然のことながら価格も数千円台と高くなる。

その点、チェーンシステムによる店は低価格志向であるほか、具や味づくりの面でもほどほどのところで安定しているので、消費者のニーズに十分に対応できている。

とくに、消費が低迷する現下においては、消費者は低価格とボリューム感を強く求めてきているので、天丼商品も不況に強い料理形態として、大きく支持されてきているのだ。

《新規出店の貢献大》 「てんや」(テンコーポレーション)は12月末現在、東京三〇店、埼玉一店、千葉一店の計三二店を出店する天丼チェーンで、国内トップの出店数を誇る。

店舗数は今年度末(平成6年3月)までに八店を上乗せして四〇店舗体制を確立し、さらに業績を拡大していく方針だ。今年度の売上げは四二億円を達成する見通しで、対前年比でみると新規出店が大きく貢献して、粗利では一九〇%の伸びだ。

てんやのメニューは天丼四九〇円、かき揚げ丼六二〇円、野菜丼四九〇円、エビ丼八八〇円などが定番で、すべてに味噌汁が付く。

メニューはこのほかにもてんぷら盛合わせ四八〇円、てんぷら定食六二〇円、さらには持ち帰り弁当として、天丼弁当四六〇円、エビ弁当八五〇円などがあり、店舗運営のシステム化により、天丼を看板商品とするファストフードレストランとしての性格をアピールしている。

客単価は六〇〇円。看板メニューの天丼で売上げ五〇%、平成4年10月から導入した特丼六九〇円が二五%の貢献度を示しており、この二つのメニューで全体の八割近くを占めるという、メニュー効率のよさをみせている。

平均月商一二〇〇万円に迫るが、店によっては月商一五〇〇万円を達成するケースもある。

《コスト圧縮に努力》 客層はサラリーマンをはじめ、学生、OL、ファミリー客とさまざまだが、五〇〇円を切る天丼メニューが消費不況の低価格志向のニーズを強く受けて、根強い人気をみせている。

しかし、低価格志向で天丼ニーズは強いものの、コメの値上がりなど食材コストの上昇で、収益力が低下してきているので、生産性の向上と諸経費の見直しなどで吸収に努めているところだ。

新年度もこの面での企業努力を継続していくほか、社員およびパート、アルバイトなど店舗スタッフのレベルアップを図る。

これは急速展開で店舗オペレーションのレベルが低下しており、このため調理や質的サービスなどストアロイヤリティーを高めていくためにも、オペレーショントレーニングなどの見直しを進めるとしているもの。

出店についても店舗物件の下落、低金利などでむしろチャンスと考えており、新規に二〇店を開設する計画だ。

ランチボックス「いろは亭」のストアブランドで、直営、FC合わせ計一〇〇店舗をチェーン化する㈱グローバルフーズ(本社‐東京・渋谷)も、天丼をチェーン化すべく、港区・広尾で「いか天」を出店、実験営業を進めてきているが、ノウハウの蓄積と人材の育成がまだ十分でないので、もうしばらく時間をかけていく方針だ。

いか天はグローバルフーズの新業態として、九二年12月にオープン。二階建て店舗約六〇席で、天丼五八〇円、特盛丼九八〇円、かき揚げ丼七六〇円、穴子丼九八〇円、特エビ丼九八〇円などをラインアップしているが、やはり値ごろ感のある天丼が七割の売上げ構成だという。

《高価格品は今一歩》 穴子丼はこの店のオリジナル商品だが、高価格商品であるので売れ行きはもう一つといったところだ。

和・洋・中と多業態の飲食ビジネスを展開する㈱ヒューマックスハート(本社‐東京・新宿)も、天丼のチェーン化を意図して、九二年12月から神楽坂で「てん亭」を開設し、実験営業を進めてきているが、現在のところ二号店目を出店する動きはない。

店舗面積約二〇坪、客席数四一席。天丼四九〇円、特製天丼六八〇円、野菜丼四九〇円、かき揚げ丼六二〇円、エビ定七八〇円、天ぷら定六二〇円(各シジミの味噌汁付き)の六品のみだが、このほか、野菜と魚介類の具材(九〇~二〇〇円)があり、好みのものを加えることができる。

低価格志向が強まるなか、主力商品の天丼に売上げの六、七割が集中するが、多店舗化はまだ先になりそうだ。

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